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「おいおい…段取りだけでいっぱいいっぱいか?情けねぇゾ?まだまだだな。」
『おめーが話かけるから進まねぇんだよ、クソタレが。』
という気持ちを飲み込み、私は黙々と作業準備を進めた。
T氏は薄気味悪い笑みを浮かべたまま常識の無い言葉を発した。
「お前の息子だから、☓☓高くらいか?」
こういうことを平気で言える奴なのである。
清々しいほどのゴミ発言である。
私の職場の人間は皆優しい。
こんな奴でも私を含め皆しっかりと大人の対応をするのだ。
「それくらいですかね。」
私は棒読みで台詞を吐いた。
「ハッハッハ!だろうな!ハッハッハ!」
薄気味悪い笑みからパァと花が咲くような笑顔を披露するT氏。
どうやらご満足いただけたようだ。
良かった良かった。
私は次の作業指示書に目を通し、機械操作を始めた。
こんな昆虫以下の生物に構っている場合ではない。
金を貰っている以上は仕事は真面目にすべきである。
「まぁ俺はな、中学校ん頃は偏差値70だったからな。」
「凄いですね。70っていったら先生達も黙ってなかったんじゃないですか?進学校行っていい大学に進学すれば良かったのに。」
普通に考えて偏差値70とは桁違いの学力だ。
こんな私でも人より色んな人間を見てきている。
頭の良い人、勉強ができる人というのはどんな人間でどんな特性を持っているかというデータくらいは私の頭にはある。
そして少なくともT氏はそのデータには乗らない。
「俺は勉強したくなかったんだよ。それを蹴ってよ、◯◯高校に行ったんだ。」
『苦しい…苦しいぞ?苦しい理屈だ…こいつの家は地元大企業の管理職。金が無いはずもない…』
私は色々言いたくなる気持ちをぐっと堪えて仕事を始めた。
「なぜです?もったいないですよ。」
「◯◯高はよ、就職が有利だって聞いたんだ。親父はよ、進学してほしかったみたいだけどな。」
「そ、そうなんですね…。」
『◯◯高が就職有利なんて聞いたことないけど…。まぁでも…こいつとの年の差は…ううん…そこまで高校の特性なんか変わるか…?』
突っ込みたいが突っ込めば面倒くさい。
大声あげられても鬱陶しい。
「お?俺のラインも動き始めるな。戻るか。おい、テキパキやれよ。」
「はい。」
何様のつもりだろうか。
私もT氏も同じ主任、同じ役職だ。
『偏差値70…か…。これは…言わない方がいいか…。』
そう、何を隠そう私の息子は私の学力を遥か上を行く。
性格は私に似て難有りだが、頭だけは妻に似て勉強はかなりできる。
現在偏差値にして60代後半だ。
受ける高校も県内有数の進学校である。
これを言えば当然T氏のプライドは崩れ去り、また大声で遠吠えを披露することになるだろう。
T氏と長い付き合いだがこの日初めて聞く伝説が新たに加わった。
T氏の伝説・偏差値70
(笑)
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