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煮豚は時間がかかる。
ホロホロに仕上げるかプルプルに仕上げるかで時間は変わるだろうがしっかり火を入れるだけでもそれなりの時間を要す。
参加者は皆、肉を焼く→食う→飲む→話すというルーティンを繰り返す。
それはそうだろう。
熱中症アラートが発令されるような炎天下である。
タープの下ではあるが火の気があれば炎天下とまるで変わりはない。
そして貴重な休日を犠牲にしてT氏の神輿を担ぐことに終始尽力しなければならない。
ならば元を取ろうと一生懸命飲み食いして、できるだけ楽しく過ごそうとするのは当然の事だろう。
しかしT氏の周囲に誰もいないわけではなく、たまにビールを持って行ったりおべんちゃらを贈呈したりと一応出資者であることは皆理解して行動しているのだ。
若い衆の優しい心遣いはT氏に届いているのだろうか。
「ビール!…ったく俺がわざわざお前らに食わしてやろうと思ってクソ暑い中調理してんのに…気ぃ利かねぇな。冷えてるヤツだゾ?冷えてるヤツ!」
届いていないようだ。
『そんなに暑くて嫌ならこんな日にバーベキューなんてしなければいいのに…』
T氏の怒号に皆呆れ顔だ。
繰り返すが皆とても優しい。
なので皆全力の作り笑顔で冷え冷えの缶ビールをT氏に持って行くのだ。
「へへへ…すいません…どうぞ…」
若い衆の一人が物凄い笑顔でT氏に缶ビールを差し出した。
その缶ビールを礼も言わずにまるで猿のようにバシッと奪い取るT氏。
ちなみに私が「物凄い笑顔」と表現したのは物凄い作り笑顔という意味ではない。
酒が入っている事もあるかと思うが、「物凄い嫌悪感と怒りを噛み潰した笑顔」だったのである。
その若い衆の一人は無言でT氏に背を向けて、年齢の近い連中の元へ戻り缶ビールを飲み始めた。
しかしそんなことも瞬時にどうでもよくなるくらい暑い。
これも偏差値70(笑)の想定の範囲内なのか。
飲み進め…食べ進め…時間は経ち、気温は日中のピークに達した午後1時過ぎ。
その時である。
「オエェ…」
若い衆の一人が両膝を着いて吐いてしまった。
「お、やばくね?今あんな吐いたらやばいよ。」
私はもう一人の格下認定四十代に声をかけて吐いてしまった若い衆の元へ駆け寄った。
尋常ではないくらい吐いている。
「おい、誰か水持って来てくれ。あとスポーツドリンクみたいなのあれば欲しいな。大丈夫か?」
もう一人の格下認定四十代がそう言いながら吐いてしまった若い衆の背中をさすった。
「とりあえず日陰に連れてくか。A、ちと手伝え。肩貸してやれ。」
「あいよ。おい…飲み過ぎだろ…ホラ、大丈夫か?」
「あ、リビングクーラー効かしてるっスよ?」
無料バーベキュー会場オーナー(笑)のH氏が声をかけてくれた。
ナイスだ。
気が利く。
格下認定四十代二人で吐いてしまった若い衆の口周りを拭いてから肩を貸して立ち上がらせた。
小柄な若い衆だったのであっという間に空調が効いたリビングにH氏の案内でたどり着くことができた。
板張りのリビングにそのまま若い衆を寝せると格下認定四十代二人は大きくため息を吐いた。
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