山の「頂上」を目指すことの意味

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 火星の北半球にそびえる巨大火山「オリンポス山」は、高さが20kmを超える、太陽系最高峰の1つだ。20kmと言うと想像が少々難しいが、エベレストを縦に2個半並べたくらいの高さがある。要は、とんでもなく高い山だ。  また、火星には二酸化炭素が主成分の大気しかなく、気温も、昼でも-50℃から-20℃程度、夜になると麓で-70℃、頂上付近では-100℃にもなる、非常に過酷な環境でもある。  そしてある日、一大プロジェクトが発表された。ひげを生やし、白衣を背負ったアメリカの博士と名乗る人物が熱意を込めて、マイクを握り締め訴えた。「USA!」とやたら間に挟まれるので少々話はわかりにくかったが、彼はこう言っていた。「――国家を超え、人類の英知を集め、ついに我々人類は、太陽系最高峰に挑む」。  各国とも、そのニュースでもちきりになった。登山隊がついに1万メートルを超えたと発表されたときはお祭り騒ぎになったし、隊の一部が断念し引き返したと聞いた時はみなが肩を落とした。朝のニュースで隊の位置を確認することが、各国民の朝の習慣になるくらいだったのだ。    そして、2か月ほどの行程を経て、ついに人類は、太陽系で一番高い場所に辿り着いた。オリンポス山の頂上に各国の旗を立て、喜び合う隊員たち。その姿を中継で見守りながら、頷き合う基地のスタッフ達。  しかし、そこで、登山隊は妙なものを発見する。文字の刻まれた石板だった。既存のどんな文字とも違う文字が記された、未知の物質でできていると思われるそれは、鑑定によるとおよそ1万年ほど昔に作られたものであるという。遥かな年月が経過しているはずなのに、石板はどこも欠けておらず、どんな手段を持っても傷一つ付けることができなかった。  人類が初めて辿り着いたはずの場所、地上から2万メートル以上も離れた終極の地に、既に何らかの存在が先にいたというのだろうか。  終末を告げる予言の書かもしれない、いや、宇宙人の未知の技術を記したものかもしれないという者もいた。宗教者は「あれこそ神が我らを導く福音の書である」と主張した。解読には、何百人もの言語学者が動員された。  やがて、結論が出たと発表があり、学者が厳かな表情で口を開いた。みな、テレビやパソコンの前でかたずを飲んで見守った。 「えー、『山頂で食べる食事は普段の100倍うまい』と書いてあります」
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