過去の囁き

6/10
前へ
/40ページ
次へ
俺の名前が響くって一体どういう事だ? まるで、見当がつかねー。 そう思いながら歩いている時だった。 廊下の床を月明かりの角度で、後ろから影が動いたのが見えた。 「誰だ?!」 俺の誰何の声が廊下中に響き渡る。 「えっ?!」 「うわっ?!ビックリしたー」 「何事ですか?千夜くん」 3人共、俺の声に驚き、怪訝そうに俺を見た。 「いや、今、ここに影が見えたんだよ」 俺の釈明に、香澄は俺にしがみつき、鈴木は注意深く、山村は興味津々で辺りを見渡す。 だが…。 「誰もいないよう?」 「千夜くん、見間違いをしたという事は考えられませんか?」 「そんな筈…」 ねー、と言おうと思った時は、影は跡形も無く、消えていた。 まるで、始めから影なんざ現れなかったかのように。 只、確かに一瞬ではあったが、影が見えたんだけどな…。 だが、気付いたのが、俺だけというのもおかしな話だ。 それに夜の旧校舎に、そうそう他に人はいねーだろう。 俺は幻でも見たんだろうか…? 俺は自分だけが気付いた事実に不安を覚えずにはいられなかった。 理科室の前を通った時だった。 何か急に寒くなってきたな。 まだ夏だってーのに、まるで真冬かと思う風が俺の背中を不気味に撫でた。 「寒い!」 「ここ冷んやりし過ぎだよう!」
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加