雪の降る温かい場所
「本当に使えない子」
「さっさと掃除を終わらせろ!」
「いい?アンタの物は全部私の物なんだから。アンタに贅沢なんて必要ないわ」
家族からずっとそうやって言われてきた。
私なんて、この家には必要ない。
小さい頃はそれが凄く辛くて悲しくて、何度も涙を流したことだってあった。
でも、もう泣いても、喚いても、誰も助けてくれないから。
諦める方がずっと楽だった。
『自分は人間ではない』『ただのゴミ』
そうやって受け入れた方がずっと楽になった。
心を守る術なんて、それくらいしか無かった。
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜
オブライエン王国の南端にある小さな村。
その村を治めているのはクロスフォード・ケインズ男爵だ。
気に入らない人物は容赦なく排除すると言われていて、村人からは恐れられている。
私、メアリー・ケインズはそんなケインズ男爵の娘だ。
ケインズ男爵には娘が二人いる。
それが、私と双子の姉であるドロシー。
ドロシーは明るくて、友人も沢山いて、そして家族から愛されている。
……嫌われ者の私とは大違いだった。
自分の意見もまともに言えず、内気で、陰気で……。
家族から気味悪がられ、そして雑用を押し付けられるようになった。
何度も心が壊れそうになったけど、私の心を繋ぎ止めてくれていたのは男爵邸の使用人達と村の人達の優しさだった。
「まぁ、メアリー様!顔に汚れがついていますよ?こちらにいらしてくださいな」
パン屋のマルセルさんが私の顔についていた汚れをハンカチで拭ってくれる。
私は申し訳なく思いながらマルセルさんにお礼を言った。
「すみません、気が付いていませんでした」
「いいんですよ!これくらい!メアリー様は私達の事を気にかけてくれている大事な令嬢様です。そうそう!メアリー様にパンを持って帰っていただこうと思って沢山焼いたんですよ!」
「そんな……、いつも悪いです」
「メアリー様に食べていただきたくて焼いたんですから、食べていただかないと!」
マルセルさんはそう言うと私に美味しそうなパンを渡してくれた。
美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。
「ありがとうございます、マルセルさん」
「いえいえ!それにしても、男爵は酷い方ですね。娘であるメアリー様にこんなお使いなんてさせて。お姉様のドロシー様には贅沢三昧させているくせに」
「姉は私とは違うので……。『何も言わない人形』なんて気持ち悪くて当然です」
「メアリー様は人形なんかじゃありませんよ!こんなにも素敵な方なのに!」
「この村の人達にそう思っていただけているだけでも嬉しいです。パン、いただきますね」
「またいらしてくださいね!」
マルセルさんに頭を下げて買い物リストに目を通す。
村を歩けば皆が声をかけてくれる。
温かい人達。
ずっと、ここにいられたらいいのにって思ってしまう。
そんな事を考えながら、私は買い物を済ませて屋敷に戻った。
屋敷に戻るとメイド長が泣きそうな表情で私に駆け寄ってきた。
「メアリー様」
「どうかされましたか?」
「旦那様が……お呼びです」
お父様が?
私を呼びつけるなんて珍しい。
私の事なんて見たくもないはずだ。
それなのに突然お姉様ではなく、私を呼んでいる?
不思議に思いながらも私はお父様の部屋へ向かった。
心配そうな使用人の人達。
部屋をノックすればお父様の返事が聞こえた。
「遅い!」
「大変申し訳ございません。村へ買い出しへ行っておりました」
「ふん。お前は用事一つ早く終わらせることも出来んのか」
忌々しそうに私を見るお父様の目に震えそうになる。
ダメ、絶対に震えては。
だって震えたらお父様が悪い人になってしまうから。
お父様の隣でクスクス笑うお母様とお姉様。
お姉様は私の持っているパンの入った袋を見て首を傾げた。
「あら?メアリー、その袋はなあに?」
「あ、これは村のパン屋さんでいただいたものです」
「ああ、あのパン屋?あそこのパンって美味しいのよねー。もちろんそれ、私のよね?」
「え……」
お姉様は私の手からパンの袋を取り上げる。
マルセルさんにいただいたパン……っ。
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