話したくない秘密

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 (わたし)先輩(せんぱい)は、廊下(ろうか)(すみ)(すわ)った。スカート()しに(つた)わる(ゆか)(つめ)たさは、なんだか(すこし)気持(きも)(わる)かった。  けれど、それ以上(いじょう)先輩(せんぱい)(となり)にいるということが(うれ)しかった。  (うそ)でできているからこそ、(うそ)をつかずにいられることが(うれ)しかった。  「もしかして、緊張してる」  「してますよ」  「なにに対しての緊張」  「これから、きっと顔合(かおあ)わせのとき、自己紹介(じこしょうかい)すると(おも)うんですけど、緊張(きんちょう)しますね」  「そんな緊張することないだろ。どうせ、何を話してもそんな覚えられないもんだろ」  「でも、自己紹介終(じこしょうかいお)わった後って、結構質問来(けっこうしつもん)たりするじゃないですか。それが緊張(きんちょう)させるんです」  「そういうものか。僕は一度も質問されたことがないな」  「そうなんですか。いいですね。うらやましいです」  「質問されるって、それだけ興味持ってもらえているってことじゃないか。話が上手いって誇るべきことだと思うよ」  「そうですか」  「そうだろ」  「そうですよね。上手(うま)(はな)したいわけでもないのに、(うそ)(はなし)をつくれてしまってもやっぱり、本当(ほんとう)のこと(はな)してないから、仕方(しかた)ないのかなって(おも)うんです。それに、人前(ひとまえ)()つの苦手(にがて)なので」  「(うそ)だろ」  「それが、本当(ほんとう)なんです。でも、そうだって(おも)われたくはなくてそうやって()たので仕方(しかた)ないですよね」  「そっか。すごいな」  先輩(せんぱい)()めてくれたことが(うれ)しくて(うれ)しくて仕方(しかた)なかった。
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