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私は、いろんな先輩に気に入ってもらえた。それでも、騙しているから、申し訳なかった。もう帰りたかった。
しかし、帰ることは出来そうになかった。一緒に来たクラスメートも、先輩たちとなんだか楽しそうに話していた。帰ろうと素振りを見せると、まだ帰らないでと言われているような気がした。だから、受け入れるしかなかった。
こうも話し続けていると喉が渇く。なんとなく近くにあった椅子に座ると、かばんの中から取り出した水筒のふたを開けた。それを飲んでいると、隣に見知らなぬ男の人がいることに気がついた。この人は、知らない人じゃなくて先輩だって気づいて、目を合わせると、声をかけられた。
「さっきの話、嘘でしょ」
「よくわかりましたね。あれ、嘘なんですよ。私、嘘つくのやめられないんです。なんか、才能もあるみたいで気づかれないんですよね。嘘がバレたら、まずいのに、気づかれないって悲しいんですよね。本当の私は、要らないのかなって気がしちゃって」
「これも、嘘だったりしない」
「どうでしょう。嬉しかったですよ、こうやって話しかけて貰えたこと。これには、偽りはないです」
「じゃあ、本当の理由ってなに」
「もうちょっと近づいてください」
触れ合うくらい近づいてくれたことを確認してから、「絶対に口外しないでくださいね。本当は、あの子に誘われたんです。あの子、中学の頃から、ここ入りたかったらしいですよ。だからこそ、緊張して言えなかったんじゃないですか。私、実際、ここの名前も知らないですし。ただついてきただけなんです。これを話したことがバレると、関係にもひびが入るので黙っていてもらえますか。お願いします。それでも、ちょっとあの子、気にかけてくれたら嬉しいです。私、笑っている人見ることが好きなんですよね」と先輩に耳打ちした。話していた時の表情なんてわからない。だから、話せてしまったのかもしれない。
「変わってるね」
そのことが、なんだかとても嬉しかった。言葉自体は、特別嬉しいものではない。それでも、そのことを心底羨ましそうな言い方や表情も含めると最高の褒め言葉だった。
本当のことを言っても、否定しないでくれたことが嬉しかった。
「変わってるのは、お互い様ですよ」
先輩との会話は、他の先輩たちにからかわれて、終わってしまった。少し前まで見学に来たことを後悔していたはずなのに、明日も行こうと思っている自分がいた。
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