話したくない秘密

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話したくない秘密

 あの()から、仮入部期間(かりにゅうぶ)()わるまで毎日(まいにち)(とお)った。  今日(きょう)は、本入部(ほんにゅうぶ)として、最初(さいしょ)()で、顔合(かおあ)わせと自己紹介(じこしょうかい)をすることになっている。  (わたし)は、自己紹介(じこしょうかい)というものが苦手(にがて)だった。(なん)となく、話すことは出来るし、別に恥ずかしいわけじゃない。恥ずかしくて言えないわけじゃない。それは、(うそ)がバレるのではないかということがこわくてたまらない。心臓(しんぞう)(いた)いと(かん)じるほど、(はや)(つよ)(うご)く。だから、この時間(じかん)苦手(にがて)だった。  自己紹介(じこしょうかい)をしているときや()わった(あと)で、「意外」、「イメージと違う」、「ギャップがすごい」と(こえ)をかけられることがある。その言葉(ことば)は、()(かた)とか諸々(もろもろ)のことを(かんが)えるといい意味(いみ)()っている。そうだと(おも)っていても、それを(よろこ)べなかった。期待(きたい)(そむ)いてしまったんじゃないかと不安(ふあん)気持(きも)ちが()()せてくる。(わたし)は、(うそ)つきだと()われている感覚(かんかく)になる。  だから、自己紹介(じこしょうかい)苦手(にがて)なんだ。自分の話をするのが恥ずかしいとかそういうんじゃない。どうせ、嘘なんだし何を言うのも恥ずかしくない。他人の視線が怖いわけでもない。  (わたし)は、クラスの自己紹介(じこしょうかい)でも、(うそ)しかついていない。  それでも、戸籍(こせき)()かれていることを詐称(さしょう)する()もないし、そもそもしていない。  ただ、趣味(しゅみ)とか()きな(もの)とかは、本当(ほんとう)のことを()かしたことなんてない。いや、(ちい)さい(ころ)(はな)していたかもしれない。こういうのは、本当(ほんとう)(うそ)他人(ひと)判断(はんだん)することはできない。だから、いくらでも(うそ)(かさ)ねることができる。  今日(きょう)()かないで(かえ)っちゃうのはどうなんだろう。やっぱり(おこ)られちゃうかな。
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