馬に蹴られて死んだはずなのに、目覚めたら婚約者が幼なじみと結婚していました〜死に戻りの意味がない場合どうしたらいいんでしょうか〜

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 どうしてだろう。なぜこんなことになったのだろうか。子爵家の令嬢ラヴィナ·コルトナーは今起きいてる現状を把握すべく、記憶の断片を呼び起こした。  そもそも、あの日は学校のみんなで山へ行き写生会の予定だった。予定どおり山へ到着して、よし、ここで絵を描こう!と思った瞬間に現れたのは野生の馬だ。  野生の馬なんてめったに現れないのになぜ?しかもこの山は、学校でたびたび写生に使われている安全な場所なはずだった。と思ったのもつかの間、その馬はいきなり暴れ出した。そして、逃げる暇もなく突進してきた馬に蹴られて踏まれたように思う。  今でも、あのときのことを思うと息が詰まって胸が苦しい。痛いというより、苦しいまま世界が止まった感じ。つまりは、蹴られて踏まれて死んだ、それがラヴィナ嬢の現状である。  目覚めたらいつもどおりのベッドの上で、朝を迎えていた。普通に考えれば、生きていてよかった、死んでなかったんだな、で終わるわけだが今回は違う。 「馬に蹴られて死んだのよね?」 「ですから、何度も申し上げているとおり、ラヴィナ様は死んでおりませんし、馬にも蹴られておりません」  専属メイドのリアンと、何度このやり取りを交わしたかわからない。 「お嬢様はここ数日高熱で寝込んておりましたので、一部記憶喪失なのだろう、とお医者様は申しておりました。悪夢と混同されている可能性もありますが、それもじきに落ち着くとのことです」  悪夢?こんなに生々しく覚えているのに、夢なんてことがありえるのだろうか。 「ちなみに私って今何歳?まさか十五歳なんてことはないわよね?」  死んだときは、十八歳と五ヶ月ほどだったと記憶する。記憶なのか夢なのか定かではないが。 「先日、十八歳を迎えたばかりでございます」  ラヴィナはビビッときた。これは俗に言う、小説などによくある死に戻り、というやつではないだろうか。  死んだことで、人生をやり直す。ラヴィナはあと五ヶ月後に死なないように生き続ければミッションクリアというわけだ。  何かを掴めたような気になったラヴィナは、少しだけ安心した。 「そういえばファービル様はお見舞いに来てくれたのかしら?ミレイユも」  ファービルは婚約者で、ミレイユは一つ年上の幼なじみ、家族のような存在だった。 「二人でお見舞いにいらっしゃり、大変心配なさっておいででした。こんなときに申し上げにくいのですが……」  リアンの顔は急に曇り始める。 「どうしたの?」 「昨日、無事にファービル様とミレイユ様の結婚式が執り行なわれ、お二人はラヴィナ様が参加できず、大変残念そうになさっていたとお聞きしました」  ベッドの上でお茶を啜っていたラヴィナの手から、ティーカップが床に転がり落ちた。  コトン、という音が静かな部屋に響きわたり、シーツにはどこかの国のような染みが黒く滲んだ。
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