13人が本棚に入れています
本棚に追加
ラヴィナの手の震えがおさまらない。
「ラヴィナ様……お式に参加できなかったことは、私も大変残念に思いますが、ご病気だったので仕方ないことです」
リアンの話がまともに頭に入ってこない。婚約する前からラヴィナはファービルに夢中で、婚約も相当うれしかった。婚約破棄などありえない。死に戻る前だって婚約中の身だった。
それがなぜミレイユと結婚?何がどうなっているのだろうか。全くわからなかった。
死に戻る前、そろそろ式の日取りを決めようかという話もあったが、学校を卒業するまではと先延ばしにしてもらっていた。
「……ファービル様は、私の婚約者ではなかったかしら」
そう聞くのが精一杯だった。声が低く震えている。
「ずいぶん前のお話でございます。ファービル様とミレイユ様が相思相愛だからと、ご自分から身を引いたのですよ。お忘れですか」
嘘だと思った。二人が相思相愛だろうが、譲れないほどにファービルを愛していた。そんな簡単に身を引くとは思えない。
ラヴィナがベッドから立ち上げると、床を片付け終わったリアンがシーツを取り替えてくれる。幸いマットレスまでは汚れていないようだった。
これなら死んだままの方がよかった。死に戻りの意味がない。確かに生命は戻ったがファービルが結婚。しかも幼なじみのミレイユと……。二人を心から祝福できない自分がいる。当分、二人には会いたくないと思った。
何のために死に戻ったのだろうか。死に戻った段階でラヴィナの人生は詰んでいる。二人を別れさせることなどできようもはずもない。ラヴィナにも良識はある。
死に戻る前はあんなに愛し合っていたのに……いつの間にか、涙が頰をつたった。
「お嬢様、いかがなさいましたか」
「いかがもくそもないわ、今すぐ死にたい」
「そんな恐ろしいことをおっしゃらないで下さい。旦那様も奥様も、お嬢様のご回復を心から喜んでおいでです。私もです。死にたいなどとおっしゃらないで下さい」
リアンが心から想ってくれているのはわかったが、滝のように流れる涙は止まらなかった。
「何がそんなにお嬢様を苦しめるのですか」
「私の記憶は、ファービル様を好きなまま止まっているの。婚約破棄した覚えもないわ」
「まあ!それは何てことでしょう」
リアンは優しくラヴィナを抱き寄せる。
「こんなことしかできず、申し訳ありません。早く記憶が戻りますよう、お祈り申し上げます」
ラヴィナがおかしなことを言っても、全てを受け入れてくれるリアン。それだけは死に戻る前と全く変わらない。彼女がせめてもの救いだった。
最初のコメントを投稿しよう!