馬に蹴られて死んだはずなのに、目覚めたら婚約者が幼なじみと結婚していました〜死に戻りの意味がない場合どうしたらいいんでしょうか〜

2/6
前へ
/6ページ
次へ
 ラヴィナの手の震えがおさまらない。 「ラヴィナ様……お式に参加できなかったことは、私も大変残念に思いますが、ご病気だったので仕方ないことです」  リアンの話がまともに頭に入ってこない。婚約する前からラヴィナはファービルに夢中で、婚約も相当うれしかった。婚約破棄などありえない。死に戻る前だって婚約中の身だった。  それがなぜミレイユと結婚?何がどうなっているのだろうか。全くわからなかった。  死に戻る前、そろそろ式の日取りを決めようかという話もあったが、学校を卒業するまではと先延ばしにしてもらっていた。 「……ファービル様は、私の婚約者ではなかったかしら」  そう聞くのが精一杯だった。声が低く震えている。 「ずいぶん前のお話でございます。ファービル様とミレイユ様が相思相愛だからと、ご自分から身を引いたのですよ。お忘れですか」  嘘だと思った。二人が相思相愛だろうが、譲れないほどにファービルを愛していた。そんな簡単に身を引くとは思えない。  ラヴィナがベッドから立ち上げると、床を片付け終わったリアンがシーツを取り替えてくれる。幸いマットレスまでは汚れていないようだった。  これなら死んだままの方がよかった。死に戻りの意味がない。確かに生命は戻ったがファービルが結婚。しかも幼なじみのミレイユと……。二人を心から祝福できない自分がいる。当分、二人には会いたくないと思った。  何のために死に戻ったのだろうか。死に戻った段階でラヴィナの人生は詰んでいる。二人を別れさせることなどできようもはずもない。ラヴィナにも良識はある。  死に戻る前はあんなに愛し合っていたのに……いつの間にか、涙が頰をつたった。 「お嬢様、いかがなさいましたか」 「いかがもくそもないわ、今すぐ死にたい」 「そんな恐ろしいことをおっしゃらないで下さい。旦那様も奥様も、お嬢様のご回復を心から喜んでおいでです。私もです。死にたいなどとおっしゃらないで下さい」  リアンが心から想ってくれているのはわかったが、滝のように流れる涙は止まらなかった。 「何がそんなにお嬢様を苦しめるのですか」 「私の記憶は、ファービル様を好きなまま止まっているの。婚約破棄した覚えもないわ」  「まあ!それは何てことでしょう」  リアンは優しくラヴィナを抱き寄せる。 「こんなことしかできず、申し訳ありません。早く記憶が戻りますよう、お祈り申し上げます」  ラヴィナがおかしなことを言っても、全てを受け入れてくれるリアン。それだけは死に戻る前と全く変わらない。彼女がせめてもの救いだった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加