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『ユティア! 温室のこと聞いたわよ。あんなに大事にしていた場所なのに大変だったわね!』
「アドリア、心配してくれてありがとう。一緒に育ててきた温室を守れなくてごめんなさい」
『そんなのユティアのせいじゃないでしょう! 大丈夫、仇討ちは私たちがしたから!』
「仇? え、あ、うん? それよりもこの場所に田畑って作れそうかしら?」
『もう! ユティア自身のことなのに! もっと怒るべきだわ』
「そうかしら?」
温室をメチャクチャにされた恨みはあるけれど、あの場所が修復不可能だったからこそ、王国に留まる気持ちがポッキリ折れたのよね。居場所を失って、しがらみも何もなくなったことをシシンに指摘されたのも良かった。
なにより一人じゃないからこそ、うずくまって絶望と悲しさに押し潰されずにすんだのだ。これからはシシンたちと自由気ままに生きる。
忘れかけた、諦めていた自由気ままな自給自足ができるんだもの。楽しまなきゃ!
『まあ、仇討ちは私たちがしておくとして……。この死の砂漠は強い呪いでこうなっているだけで、オアシスや作物なら精霊である私たちがいれば問題ないし、なんだって実るわ』
「じゃあ、タマネギや他の薬草も!?」
『ええ』
なんだか「仇討ち」とかのワードが聞こえたが、あの温室は妖精や精霊たちの憩いの場所であったのだから、それを勝手に破壊されたら怒るのは当然だわ。それで呪われてもしょうがないわよね。うん。
それも自己責任だわ。
そんな訳でテントの後ろに田畑を作ることにした。植物人族のアドリアと、水の精霊ディーネを呼んでオアシスの周囲には苔を作り、田畑にも幾つかの収穫物に、魔物よけの世界樹を生やしてくれたわ。世界各地に世界樹はあるけれど49フィートってけっこうな高さを生み出すなんて!
この死の土地は呪われているらしいけれど、元々は肥沃な大地なのかもしれないわね。
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