第5話 砂食い鯨のソテーとオニオンスープを作りましょう・後編

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「きゅうう……きゅう……」 『そのまま顔を近づけて食べれば良いのに。……え、そんなことできない? 面倒だな。ユティア、コイツに食べさせる必要ないと思う』 「まあ、神獣種だと矜持も高いのね」 「きゅう!」  必死で前脚を動かして抗議しているが、まったく何を言っているのかわからない。でも確かにこのまま顔をお皿に口を付けて食べたら、顔の周りがベトベトになるものね。  しょうがないと、食べさせる。  シシンは「甘い」と言うけれど、私たちの国では神獣種や幻獣種で特に白を持つ獣は、大事にする風習がある。  遙か昔神々の遣いとされて、白き獣が国の危機を救ったという言い伝えが各国に今も色濃く残っていることもあり、手を貸してしまう。  モフモフの魅力に負けたのもあるけれど。フォークで一口サイズのものを砂海豹様の口に運ぶ。 「きゅっ。…………きゅうう!! きゅう!!」 「あら、お気に召しました?」 「きゅきゅ!」  一口食べさせるたびに後脚が揺れて可愛い。よく咀嚼して味わっている姿は人間みたいだわ。スープを飲みたいのか、前脚でアプローチしてくる。  熱いので大きめのスプーンで掬って食べさせたが、こっちもお気に召したのか目をキラキラさせていた。こんなにも全身で喜んでくれるなんて、作った甲斐がある。  黒い痣が消えるような変化はないけれど、元気になったのは良いことだわ。  ある程度、砂海豹様の料理を食べさせたら自分も料理を味わって食べる。やっぱりできたて、特に手間をかけて作った料理は美味しいわ。  特に春露ジャガイモは蕩けるような味わいで、お肉と一緒に食べると塩っ気と肉汁が合わさって最高。  思えば国の面倒事ばかり押しつけられて、ここ最近料理なんて作ってなかったもの。冒険者ギルドからの依頼は、大体秋口から冬前と春先。今頃だったわね。冬眠していた竜種や獣が出現していたし。  私がいなくとも、なんとかなるでしょう。  あ、いろんな具材を煮込んだスープが美味しい。泡沫セロリの風味が良い感じに調和しているわ。これ絶対明日になったら、もっと味に深みが出るわね。ああ、楽しみ。  食べ終わったら、今度の方針とか改めてシシンたちと相談しよう。ついでにデザートとか作っちゃおうかな?  死の砂漠って言われているけれど、夜でも気温が下がらないし、ジェラートとかちょうどいいかも!  あー、なんだか楽しみ♪
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