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『くすっ』
ふと聞き慣れない声に、ジェラートから視線を外して周囲を見渡す。傍にいたシシンやディーネの姿もない。なんともフワフワするような──夢を見ている時に似て、現実味がない。
だからだろうか。私のすぐ傍に美しい人が佇んでいた。
「え」
褐色の肌に、白銀と金が混じったふわふわの長い髪。藻みたいにもモフモフなのだけれど。森人妖精のような尖った耳、異国の王侯貴族のような白基調とした服装。なにより鼻筋が高く整った顔立ちに、瞳は金色で白目の部分が黒く染まっている。
童話で読んだことのある『夜の王様』を彷彿とさせる気品さと美しさに、思わず見惚れてしまう。
『──』
彼が何か口に仕掛けたところで、「きゅうううう!」と砂海豹様の声が、耳に届いた。
「ハッ!? 夢?」
「きゅううう!」
まるで白昼夢を見ていたような不思議な体験だった。もしかして流星果実の見せた幻想? 白昼夢?
なんだか分からなかったけれど、素敵な人だったな。
「きゅうう」
砂海豹様は私の顔を覗き込みながら、ぐりぐりと頬ずりしてくる。後脚がぶんぶんと揺れているので、流星果実ジェラートに興味津々なのだろう。
「砂海豹様も食べたいのですね」
「きゅ!」
スプーンで掬って食べさせると一瞬だけ哲学者のような葛藤した顔をしたが、ジェラートの魅力に勝てず口にする。食べた瞬間、目をぱっちりと見開き、ぱああ、と笑顔になった。
「きゅきゅ!!」
「ふふっ、お気に召しましたか?」
「きゅい!!」
『ん~、濃厚かつ口の中で溶ける甘みがまたいい』
『甘すぎず、サッパリしていていくらでも食べられそう』
『ググッ、……おいしい』
ノームは夢中で食べている。実は精霊の中で一番ジェラート系が好きなのだ。わいわいと流星果実ジェラートの感想を言い合いながら、スイーツを堪能する。
実際にベリーの甘みと、ほどよい酸味が口の中で溶けて癖になりそう。牛乳も濃厚だったのがよかったのかも。
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