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第9話 放蕩王、ガリアスの視点2
テントの外はどこまでも白く滑らかな砂漠と、それを照らす月明かりが見えた。
傍にはあの凶暴な砂喰い鯨の死体と、赤々と燃える焚き火の炎。このテント周辺を守らんと、聳え立つ世界樹の若木……。何もかもが出鱈目な光景だ。魔法ではこうはならない。
気紛れで残忍な妖精や精霊が、嬉々としてあの子に力を貸し与えている。しかも見張り番を、かつて神の座にいた風の精霊王が担うのだから驚くしかない。
「……シルクニフパラディーン。あの子は、『黄金の林檎』の化身なのか?」
「ふふふー! ボクらの愛し子は凄いだろう!」
そう言いながら光の玉は、エメラルドグリーンの美しい髪の偉丈夫の姿に戻る。半透明だがその魔力は凄まじく、以前と何一つ変わっていない──が、中身はだいぶ丸くなったような気がした。
「確かにすごい。出会って間もない私に求婚するなんて、大胆な子だよ」
「……え。求婚?」
「そうだろう。私を抱きしめて何度も……ふ、触れるのだから。それだけではなく、私に食べ物を与えるし、魔法術式的にも食べさせる行為は『特別な存在』だと決まっているし、体を洗って……寝る前にキスだってしてきた。添い寝ではあるけれど、同衾までされたら愛されていると言っても過言ではないだろう」
「あーーーうん」
思わず私を撫でた手の感触を思い出し、胸が熱くなった。
あの子の笑顔を思い出すと、無性に会いたくなる。数分前に寝顔を見たばかりなのに、おかしい。
なぜ?
よくわからないが、体温が上がって心臓が早鐘を打つ。自分の体の管理はしっかりしていたが、魔力酔いだろうか?
「んーーーー、ええっと……ガリアス。一つ聞くけれど……昼間の君の姿って、どう認識している?」
「ん? 髪が藻のように膨れ上がって両手が痺れて上手く動かせず、二足歩行が困難になる呪いのことかい? そういえば君たちの声も、時々ぼやけて聞こえるね。確かに大人としてあのような姿は無様としかいえないけれど、そういう呪いだし。数百年経っても呪いを解く方法もないままで、お手上げだったのさ。この一カ月、あの子の料理を食べたからか体が軽い」
「あーー、んんーーー」
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