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「きゅう!!」
『ゆてぃあ!!』
「ぬにゃ!?」
唐突に飛びついてきたのは、砂海豹のリア様だ。途端にコームは嫌そうな顔をして姿を消してしまい、リア様はそんなことお構いなしに私の傍を浮遊する。
シシンから風魔法の加護をもらったのか、水中を泳ぐように生き生きとして動き回るようになった。それだけじゃなく──。
「きゅううきゅうううう!」
『ゆてぃあ。じょせいとしては、ゆてぃあはこのましい』
「まあ! ありがとう」
この一カ月半で、リア様と意思疎通ができるようになった。若干、文脈が可笑しいけれど、なんとなくのニュアンスで理解できる。シシン曰く、風と音魔法で言語自動翻訳を行っているらしい──うん、この時点で意味不明なのだけれど、つまりは意思疎通できる魔法だとか。ただ呪いの影響で、翻訳がどうにも直訳的な感じになる。
リア様の声って結構好きかも。
それに。
「ゆてぃあ」と名前を呼ばれるたびに、脳裏に褐色の偉丈夫が浮かび上がる。
ここ一カ月半、褐色の偉丈夫と夜の散歩や、他愛のない話をする夢をよく見るのだ。
夢の中だから、なにを話していたのか思い出せないけれど、終始ニコニコしていたあの人が忘れられない。……我ながら出会ったこともないのに、人恋しいのかしら?
それともホームシック?
うーん、それはないわね。
仕事人間の父に、社交界での評判しか興味の無い母。あんな針の筵のような実家になんて、絶対に戻りたくないわ。
「きゅうう?」
『ゆてぃあ、そくさいですか?』
「ソクサイ? 息災──元気か、っていいたいのね? ふふ、難しい言葉を知っているのね」
リア様のモフモフに抱きつく。今は浮遊しているので抱きつくのが簡単にできる。以前よりも毛並みもよくなって、ふわふわ具合も最高に心地よい。良い香りがする。
それこそ、あの夢に出てくる人を思わせるような?
──って、何を考えているの!?
ぶんぶんと頭を振って、愚かな考えを取り払う。
「きゅうきゅ……」
『ゆてぃあ、きょうのおちゃのこは、なんでしょうか?』
「お茶の子? ……あ、オヤツね!」
「きゅう!」
「ふふっ」
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