第10話 ふわふわ幻想パンケーキにかけるものは?・前編

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 リア様はすっかり料理の虜だ。最初の数日は魔物種に対して難色を示していたが、無害だとわかり、あっという間にメロメロになった。  食獣種も捕獲できる時は、そちらで対応するけれど、毒抜きした魔物種のほうが素材の味が美味しいのよね。下拵えもちょっとで良いぐらいだし。  一カ月半ほど見てきて、リア様はスープにご執心で、何杯もお代わりを要求する。その分、主食の肉や魚は小食。最初は口に合わないのかと思ったけれど、シシン曰く「あとはデザートを食べるためだって」と呆れ顔で話してくれた。  精霊も妖精たちも甘い物には目がないが、神獣種のリア様もどうやらそのようだわ。  私としては自分の作った物を喜んでくれるのは、この上なく嬉しいのだけれど……。一つだけ悩みがある。 「昨日はゼリー系だったから、今日はふわふわ幻想パンケーキなんてどうかしら?」 「きゅう!!」 『支持します』 『はいはーい! パンケーキには、もちろん蜂蜜と上にジェラート乗せよね♪』 『ググッ。……パンケーキには真っ赤なベリージャム』 『私はもちろん、生クリームだわ』 『カスタードクリーム』 『ふふっ、ユティアのパンケーキなら断然、黒蜜一択だろう!』 『『『『あ?』』』』  始まったわ。  以前からパンケーキはもちろん、ケーキ類になると精霊と妖精それぞれで意見が別れる。どれも自分の好物が一番だと譲らないのだ。  どれも美味しいじゃダメなのよね。  ちなみにリア様は傲慢にも『全部乗せ』が大好きなので、他の子たちから「ありえない」と言われていたけれど……。  そんな傲慢さも、可愛らしく思えてしまう。 「黒蜜とジャムと蜂蜜、それとジェラートはストックがあるけれど、生クリームとカスタードクリームは準備しないといけないから、みんな手伝ってね」 『わかった!』 『ググッ。切るのなら、なんでもする』 『もう、しょうがないわね』 「ありがとう」  自分たちが食べなくても、彼らは手伝いを喜んでしてくれる。そこは協調性があるので助かるわ。  もっとも自分たちの好きなものは、色んな人の手で作られているって分かっているからこそ、手伝ってくれるのよね。  一人で材料から集めて作るのは、とてつもない労力と時間と手間がかかる。それこそ温室で焼き菓子や調味料を頼まれることが多かったけれど、手伝ってくれたのは、いつだって妖精や精霊の彼らだわ。
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