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「ユティア。……ああ、名前を呼ぶだけで、どうしてこんなに胸が温かくなるのだろう。どうして君が相手だと、こんなにも心が揺れ動くのかな? 君は私にとって黄金の林檎そのものなのかい?」
「え、ええっと!? 林檎? 『黄金の林檎』って、神々の楽園にしか実らないという? あの伝説の食材?」
「そう。地上のあらゆる食材の頂点に立つ伝説の果実で、その味はえも言われぬ素晴らしいものとされている──」
『あー、二人とも食材の話に脱線しているけれど、いいのかい?』
「ハッ、そうでした。つい」
「私もつい……」
『ユティア、その色ボケ男は、悪いやつではないけれど……手が早いから気をつけるように』
「え」
色ボケ。色恋が多いってことかしら?
でもこんなに素敵な容姿なのだから、さぞモテるでしょうね。もしかして私への求愛もポーズ?
異性なら誰にでもしちゃう?
お世辞を真に受けて──ああ、なんて恥ずかしい!
ちくり。
胸の奥がなんだか痛む。王太子のアドルフ様と婚約破棄したばかりなのに、胸が痛むなんておかしいわ。きっと気のせい。
私を抱きしめて離さないリア様の顔を覗き見る。
「シシン! 友としてその発言はどうなのだ!? ……確かに今までは……恋や恋愛に関して、よくわかっていなかったが……ユティアは今までと違う」
『そのセリフ、もう聞き飽きたよ。言っておくけれど、ユティアはボクたちと契約しているんだ。……他の妻と違って、酷いことをしたらいくら君でも許さない』
シシンの声音は穏やかだったけれど、いつもと違う声のトーンに真剣さが伝わってきた。私を案じてくれていることは素直に嬉しい。
……ん? 妻って言葉が聞こえたような?
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