510人が本棚に入れています
本棚に追加
第2話 失った居場所と新たな出会い
これからどうしようかしら?
ぐるぐると思考がまとまらない。そんなことを考えている間に衛兵に連れられたのが、王城の門扉だったことに気付く。
公爵家に戻る馬車の用意もない。
昼下がりであれば、馬車を用意するのは難しくないはずなのに……。
「聖女様の機嫌を損ねてはいけませんから」
「辻馬車なら城下町にもありますので、髪飾りなどを売れば戻れるでしょう」
衛兵の皮肉めいた言葉に怒る気力もない。リーさんもいつの間にかいなくなっている。やっぱり彼も商談する価値がなくなったから離れたのね。でも商人はそういうものだもの。友人とは違う……。
友人、知り合い、温室に助けを求めてきた人たち……。王城を出るまで色んな人とすれ違ったけれど、誰も止めなかったということは──そういうことよね。
公爵家に戻っても、お父様は婚約破棄された私のことを許さないでしょうし、お母様も社交界での評判が落ちると悲しむだけ……。
私の戻る場所なんてない。
トボトボと王城の橋を歩く。思えば馬車に乗らないで城下町に降りるなんて初めてだわ。
風が冷たいけれど、凍えるほどじゃない。春先でよかったわ。
これからどうしよう。
これからどこに戻ろう。
帰りを待ってくれていたのは、あの温室と──。
『ユティア、お引っ越し? 人間は好きだよね』
「シシン……。引っ越し……そうね。温室……大事な居場所だったのに、あっという間に壊れてしまったわ」
私の傍を浮遊する光の玉は、風の精霊シシンだ。私には生まれて魔力がない代わりに、精霊に好かれやすい。シシンとは契約を交わしているので、仲良くしてくれている。
『ふーん。じゃあ次の新天地はもっとすごいのを作ろう! 大丈夫、ボクたちがいればあっという間に、あの温室を超える特別な場所ができるよ!』
「そう……かしら……でも私は一文なしだし……」
『そんなのボクたちがいれば、どうとでもなるよ! それに今まで国の面倒事を肩代わりしていたのがなくなるんだろう? 自由にやりたいことをしようよ!』
「やりたい……こと」
最初のコメントを投稿しよう!