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新天地となる緑豊かな森を想像してワクワクしていたのだが、物事はそう都合良く進まないらしい。
『ん、あ!』
「ぎゃふっ!?」
足をぐいん、と引っ張られて私は顔面から地面、というか砂の上に倒れ込んだ。地味に痛い。顔を上げると、そこには黒の斑はあるものの白いフワフワでモフモフの砂海豹が寝そべっていた。
周りを見渡す限り白亜の砂漠が続いている。そんなところにぽつんと横たわる砂海豹。
「か、かわいい……。なんて素敵なモフモフなのかしら! それに斑があるけれど白いわ」
『あーーー! コイツだよ。ボクの転移魔法の因果律に干渉してきたの!』
「因果律? えっと邪魔されたってことかしら?」
『んー、ユティアのあるべき運命の形が変化したことで、大きく揺らいでいた糸が別の結び目を得たって感じかな』
あーうーん、どうしよう、サッパリ分からない。
魔力のない私には魔術や魔法関係のことは、まったくもって理解できないのよね。数式の規則性や古代文字も勉強すれば読めるのだけれど、魔術や魔法に関連する場合は文字すら読み取れないのだから何らかの病気あるいは、魔力がないことで頭が認識しようとしないのかもしれないわ。
魔法が全ての世界で、魔力無しは生まれながらに欠陥品の烙印を押される。だから両親から愛想を尽かされて、それでも公爵令嬢で精霊に愛されるという稀少さを王家は欲しがったのだろうけれど……。
ううん、もう過去は振り返らない。王族との関わりも切れたし、貴族の身分も捨てたのだから!
「きゅう……」
砂海豹は3フィートぐらいかしら? 本物を見るのは初めてだけれど、なんて素晴らしい毛並みなのかしら。この黒い斑は紋様? それとももともと?
白い獣は古来より神々の化身あるいは眷族とされてきて、神獣種、幻獣種に分かれている。普通の砂海豹は黒に近い灰色だから、この砂海豹は神獣種なのだろう。
私とは違って存在そのものが特別なお方。
「シシン、ディーネならこの方を癒やせるかしら?」
『あー、これは古くて強い呪いだから手順通りじゃないと悪化する奴だよ~。しかも死ねないから質が悪いなあ。一体どれだけ憎まれて嫉まれて怨まれたのか』
「そんなに?」
『うん。十二の魔女全員にかけられているなんて中々無いよ。それこそ君たちの時代では神時代かな』
「神時代……」
呪い。魔法の中でも魔力量の多い者ができる禁術、祈りと対極にある……というところまでは理解できるけれど……。
「私に呪い解除なんてできるのかしら……」
『君ならできるよ。だって君は精霊に愛された子なのだから。呪いは愛があれば解くことができる。魔力とかはあんまり関係ないんだ』
「え、ええええええー!?」
『え? 今までだっていろんな呪いを解いてきていたのに、気づかなかったの?』
「ハーブや調合の効果だと思っていたのだけれど……」
『誰かのために一生懸命作ることが呪いを包み込んで溶かす方法なのさ。試しになにか作って見たら?』
「そうね、実際に試して──って、当たり前だけれど、ここには温室のような厨房がないわ」
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