玄関にて

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「この事件、おぼえてる?」 廃墟へと追い詰めた、年老いた男に聞いてみた。 黒のキャップ帽をかぶっている。 俺は警察官になった。 ずっと逃げ続けてきて、掴まることのなかった強盗犯と対峙している。 「あぁ、あったな、うん、やった、やった、 息子を殺し損ねたから、よくおぼえてる」 「後悔させてやるよ、あのとき、俺を殺さなかったことを」 俺は軍手をはめて、拳銃ではなくナイフを取り出した。 野球ではなく、警察学校で鍛え上げた柔道の腕前で男をねじ伏せた。 そして腹部を刺した。 「けっ、警官がっ、な、なんでっ!」 男が呻く。 「おまえの犯行では死刑にも無期懲役にもならない、そんなのは嫌だ、 おまえを殺すことのほうが大事なんだ」 血しぶきを上げないよう用心して、ゆっくり腹部へと刃を入れる。 「ただいま、ただいま、ただいま、ただいま!」 そう言いながら何度も何度も刺していった。 「お、かえり......」 男は、そう言いながら、こと切れた。
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