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4.珈琲
彼女との交際が終わりを告げたのは、十一月に入って間も無い頃のことだった。
烈しい陽射しは次第に和らぎ行き、吹く夜風が冷ややかさを纏いつつあった頃から別れ話は次第に表面化し、そして段々と具体的なものになりつつあった。
それはごく稀なことだったけれども、別れ話の最中に僕の声が荒立つこともあった。
彼女の言葉を不快に感じたとか、彼女が僕を怒らせるような振る舞いをしたという訳では無かったけれども、そう振る舞うべきだと命じるもう一人の自分が何処かに居て、その言葉に従うべく振る舞ったようにも感じている。
『通過儀礼』と表わすのは流石に言い過ぎだけれども、それは僕が彼女との関係性を諦めるために必要なものだったのかも知れない。
その一方、別れることなど止めて関係をやり直そうと思ったことは一度や二度では無かった。
それなりに長く続いた交際の日々は懐かしくもあったし、それが終わりを告げることは切なくもあった。
鮮やかさや瑞々しさこそ褪せつつあったものの、彼女への想いは僕の中にてごく自然で至極当たり前のものとして根付いていた。
けれども、互いの感情の振幅や波長が緩やかに調和するようにして、別れることに対するそれぞれの温度感が何時の間にか擦り合わさって行き、そしていよいよ十月の末には別れることで考えが一致したのだった。
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