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どういう意味か、と思ったアデルの横から、二人の若い作業員が割り込んだ。
「おばさん、いつもの」
女店主は金を受け取ると「午後も頑張っとくれ」と言って包みを差し出す。作業員はそれを受け取ると、どこそこの工事が遅れていると言いながら戻っていった。その後ろ姿を見ながら、女店主は言う。
「あたしゃ、この国で頑張る人たちに食事を供給してるんだ。今日できることを、明日できることを、精一杯やってもらうために。これが、あたしのできる復興なのさ」
アデルはおもわずうつむいた。自分の浅い考えが恥ずかしかった。屋台のまわりに昼食を求める人たちが集まりだし、アデルは前を離れる。その背中に女店主の声が投げられた。
「あんたができる精一杯はなんだい。それをおやりよ」
私にできる精一杯……。アデルはその夜、ついにピアノを開いた。
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