(3)

2/3
前へ
/11ページ
次へ
 どういう意味か、と思ったアデルの横から、二人の若い作業員が割り込んだ。 「おばさん、いつもの」  女店主は金を受け取ると「午後も頑張っとくれ」と言って包みを差し出す。作業員はそれを受け取ると、どこそこの工事が遅れていると言いながら戻っていった。その後ろ姿を見ながら、女店主は言う。 「あたしゃ、この国で頑張る人たちに食事を供給してるんだ。今日できることを、明日できることを、精一杯やってもらうために。これが、あたしのできる復興なのさ」  アデルはおもわずうつむいた。自分の浅い考えが恥ずかしかった。屋台のまわりに昼食を求める人たちが集まりだし、アデルは前を離れる。その背中に女店主の声が投げられた。 「あんたができる精一杯はなんだい。それをおやりよ」  私にできる精一杯……。アデルはその夜、ついにピアノを開いた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加