眠る波留

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眠る波留

*  結婚してから二十四年が過ぎた。  今、波留は酸素マスクで顔を覆われ、身体は大きな機械とチューブで繋がれて生かされている。  もう五日間眠り続けている。  その日は休日で、俺は二階の部屋で会社から持ち帰った仕事をしていた。階下からガシャンという激しい音の後に、何かぶつかるような音が聞こえた。  急いで階下に降りた俺の目に飛び込んできたのは、倒れたときに食器棚にぶつかったのか、そこにもたれかかるように倒れていた波留の姿だった。  床には食器の破片が砕け散っていた。 「波留……」   駆け寄って声をかける。  息をしているが意識がない。  早くしなくちゃ。俺はとてつもない恐怖に震えた。    すぐに救急車を呼んで病院に運ばれた。脳卒中だという。  手術をした医師の説明で、いつ何があってもおかしくない状況だと言われた。   危篤だ? そんな筈はない。そんな馬鹿な話はない。波留は眠っているだけだ。  波留、お願いだ! 目を覚ましてくれ。  波留は五日後、ICUから個室に移された。だが危険な状態に変わりはなかった。 「このままの状態が続いて、やがて……あまり長くは……」 医師は言葉を濁した。
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