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入院して一週間が過ぎた。
初めは泣きじゃくっていた息子の冬透は、
「お母さんを友だちに会わせてあげよう」と俺を諭すように言う。
娘の夏葉に至っては、
「ねえ、お父さん。親戚とか呼んだ方が。先生からもそう言われてたし」
そんなことを言う。
うるさい。波留になにかあるなんてそんな訳ない。波留は……波留は……眠っているだけだ。
もし波留が皆に会ってほっとして、逝ってしまったらどうするんだ。馬鹿者め。眠っているように見えてもきっと聴こえてるんだ。
波留の手を握ったまま黙っている俺に夏葉は、
「お父さん、しっかりしてよ。いざというときのことも考えないと……」
何を言うんだ! 俺はきっと睨んだ。
しかし、睨んでしまって悪いと思った。
俺は努めて冷静に言った。
「大丈夫だ。お母さんは必ず意識を取り戻す」
そう言ったが、堪えていたものが頬を伝って不覚にも子どもたちに見られてしまった。
子どもたちは静かに病室を出ていった。
あの子たちなりに万一の時はお母さんに思い残すことがないようにと、精一杯考えてのことだろう。心のゆとりがない俺を許してくれ。でもお願いだ。波留の前であんなことを言わないでくれ。
波留にプロポーズした時に約束したんだ。またあの山に行くって。俺は忙しさにかまけて、いまだに約束を果たせてない。波留、目を覚ましてくれ。必ず約束を果たさせてくれ。
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