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『友達の好き』と『恋愛の好き』はどこが違うのだろう。
その答えが分からないまま、あいつはオレの前からいなくなった。
あいつは高校に入って初めてできた友達だった。たまたま同じクラスで、たまたま席が隣だった。
ただそれだけだったけど、なんか気が合って、気づけば親友になっていた。
学校にいる間はいつも一緒にいて、休みの日もよく出かけた。テスト前には一緒に勉強して、成績も見せ合うほど仲良くなった。
あいつのいない生活なんて考えられないくらい、あいつはオレには欠かせない存在だった。
だけどそれが、少しずつ変わって来る。
あいつの視線に気づくようになったのは、いつからだったか。
コース別のクラス分けになった3年で、オレたちは初めてクラスが分かれた。オレたちの進むコースが違うからそれは仕方がないし、初めから分かっていたことだ。なのに最終確認の時、あいつが何気に言った。
「お前と同じコースにしようかな?」
今まで同じクラスでずっと一緒だったから、オレだって別れてしまうのは寂しいし、正直嫌だった。だけどそのために大学入試に関わる大事なコースを変えるのは違うし、その口調が割と軽かったからオレは冗談だと思った。
だから言ったんだ。
「何馬鹿なこと言ってんだよ。お前に数学が解けるのか?」
あいつは数学が壊滅的にできなかった。だからオレは、それをからかい半分で言ったのだ。
あいつの言葉が冗談だと思ったから。オレも軽い気持ちでそう返した。だけど一瞬見せた寂しげな瞳に、オレはドキっとする。でも次の瞬間いつものように笑ったから、オレは気のせいだと思った。
そして3年になり、初めてあいつのいない生活になった。
コースが違うのでクラスは分かれ、物理的にも遠くなっしまった。それは休み時間に往復するにも辛く、昼休みに会うのがせいぜいだった。
そんな時だ。
ふと視線を感じで振り向くとあいつがいる。
声をかけるには少し遠く、だけど姿は見える。
それは移動教室の途中だったり、体育の授業だったり。
そしてオレがそれに気づいて目が合うと、あいつは目を細めてわずかに笑った。
別に疎遠になった訳じゃない。
メッセージのやり取りはしていたし、昼だって会える。だけど、なぜだろう。オレもすごく寂しかった。
だからオレもあいつを探すようになった。あいつのクラスだと分かると、その中であいつを探した。そして見つけると嬉しかった。そしてあいつもオレを見つけて、視線が合った時はドキドキした。
でもオレは、なぜそうなるのかを考えなかった。
『あいつは親友だから、他の奴とは違って当たり前』
そう思っていた。
そんな1年が終わり、無事に二人とも志望校に受かって晴れて卒業式を迎えたその日、オレたちは二人で最後の別れをしていた。
最後と言っても今生の別れでは無い。
進学先は違えど親友であることには変わりなく、これからも変わらず付き合って行くのだ。
だから何も悲しくない。
だってまたすぐに会えるのだから。
オレはそう思っていた。
だから学校で会えなくなるのは寂しいけど、それほど大きな感情はなかった。
だけどあいつは違っていた。
いつもと様子が違うことは感じていた。でもそれは、卒業式だから感傷的になっているだけだと思っていた。
あいつのその言葉を聞くまでは・・・。
「好きだ」
オレの目を見て言うあいつの声は真剣だった。
「恋愛の意味で、オレはお前が好きだ」
その言葉の意味が分からないわけじゃない。だけどすぐには言葉が出かった。
心臓がうるさいくらい激しく脈打つ。
「ごめん。こんなこと急に言われても困るよな。別に返事が欲しいわけじゃないんだ。ただオレの思いを、最後に伝えたかったんだ」
そう言って目を細めて笑うあいつの顔は、いつも目が合った時に見せる顔だった。
どんな思いでそれをオレに言ったのだろう。
オレも何か言わなければと思うのに、頭になんにも浮かばない。
どうすればいい?
何を言えばいい?
分からなくて、何も言えなくて、身体が固まったように動かない。そんなオレを見て、あいつは視線を下に向けた。
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