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「ただ許せなかったってだけで、無理やりこんなところに連れてきちゃって、ただでさえ嫌われて避けられてるって言うのに。オレ、どうしたらいいか分からなくなっちゃって。そしたらお前があんなこと言うから・・・」
それはオレが、誰かに無茶苦茶にされたいって言ったことだろう。
オレが今まで他の男に抱かれていたってだけでもショックだったろうに、今から無茶苦茶にしてもらえる男を探すと言ったから、こいつはあんなにキレたのだろう。
あの時のこいつの顔は怖すぎて、軽くトラウマだ。
そんな風にあの時のことを思い出していると、そいつはオレを抱きしめたまま再び同じことを訊いてきた。
「お前、オレのことが好きなの?」
その問いに、オレは口を噤む。
だって、どう答えていいか分からないからだ。
でもこいつも真剣に心の内を話してくれたのだ。オレも真剣に話したい。
「・・・分からない」
それは紛れもない本音。
オレはこいつが好きなのか?
「でもオレのこと、ずっと忘れられなかったんだよね?」
こいつを忘れられなかったんじゃない。こいつが告白したために自分を見失い、その答えを模索し続けた結果必然的に忘れられなかっただけだ。
でも、たとえ結果論としても常にオレの頭の中にあったということは、こいつを忘れられなかったと言うことになるのだろう。
だけどそれが、こいつの言う通り『好き』ということになるのだろうか。
確かにずっと忘れなかった。こいつのことを考えると心がざわついた。見つからない答えにイラつき、いつも胸がキリキリ痛かった。でもそれは未だ見つからない答えに対する思いで、こいつに対する思いでは無いのではないか?
ほらまた、『好き』の意味が分からない。
人を好きになるって、どうしたら分かるんだろう。
「・・・好きって、どうなったらそうなるの?」
お前はなんで、オレが好きだと思ったんだ?
「オレたち友達だったろ?一番仲良くて、一番一緒にいた。だからオレだってお前が好きだったよ。他のやつよりも。だけどその『好き』が、お前は変わったんだろ?それはどう変わったんだ?どう変わったから、友達の『好き』から恋愛の『好き』になったんだよ?」
オレがずっと分からない答えを、こいつはあの時既に分かっていたんだ。だったら知りたい。どうしてお前はそう思ったのかを。
そんなオレの問いに、そいつは少し寂しげに笑った。
「オレもお前を一番の友達だと思ってたよ。お前の隣はオレの場所だって。だけどそれが出来なくなるって思った時、それが嫌だと思った。それがお前を恋愛的に好きだと思った、初めだった」
オレの隣にはいつもこいつがいて、それが当たり前だった。そしてそれが出来なくなるって・・・。
「3年のクラス分けの時?」
コース別になる3年からのクラス分けは、コースが違うこいつとは必然的に別になる。
「お前と進むコースが違うと分かった時、来年から違うクラスになることが決定したろ。お前は別になんとも思ってなかったみたいだけど、オレは違った。これからクラスが別れたら、こうやってずっと一緒にいられなくなる。クラスによっては、会えるのはせいぜい昼くらいだ。そうなったら、当然同じクラスで親しいやつが出来て、お前はそいつと行動を共にするだろう。そう思ったら、それが嫌だった。今までオレがいた場所に、違う誰かがいるなんて、そんなの許せなかった」
そう言えば、オレと同じコースにしようかと言ったことがあった。あの時、こいつはそんなことを思っていたのか。
「そこからだよ。お前への思いが友情とは違うって思ったのは」
そう言ってオレを見た。
「今までみたいにそばにいたかった。それだけだったら、きっと友情だったろうね。オレがいるはずの場所にいるやつに嫉妬しても、それは友達としてだ。だけどオレは、それ以上を求めてしまった」
「それ以上?」
「いつからだろう。お前の視線が違う誰かに向けられているのが嫌だった。オレじゃない誰かを見て楽しそうに話すお前の笑顔に胸が痛んだ。でもそれも、友達に対するつまらない嫉妬だと思ってた。だけど実際クラスが別れて、そんな場面ばかりになって来ると、オレは夢を見るようになった」
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