FINAL PIECE

088反論

その本指名客も
酔ってくだらない電話をしてきた

また食事に行こう
店を通さないとダメなのか

彼と出逢う以前に
母親が亡くなって落ち込んでいる
という話を聞いて
１度だけ食事に行った
もちろん営業も含めてのことだ

彼にも言われていたことだが
１度食事に行ったりしてしまうと
その後もしつこい客は多い

キャバ嬢時代にも
経験済みだ

私は適当に受け流して
電話を切る

彼の機嫌が悪い

態度や言葉には出さないが
見れば解る
眉間にシワを寄せている

私は彼に何が嫌なのか聞くが
彼は答えてはくれない

何度も言うと
彼はやっと口を開いてくれた

実は客との電話を
彼が聞いたのは
この時が初めてだった

「僕と居る時は客と」
「電話しないようにしている」
「そう言ってくれていたのに……」

確かに私はそう言った
それに客との営業を
見せようと思ったことも
わざわざ彼には言っていない

でも
約束したわけではないよね

反論する私に彼は付け加えた

「ごめん」
「約束してくれたわけじゃないし」
「僕がアレコレと」
「文句を言うことではないけれど」
「初めて営業トークを目の当たりにして」
「結構な度合いで心に刺さった」
「文句は言いたくない」
「でも嫌なのは嫌だった」
「だから言わなかった」