僕はまだ泣けない

1/1
前へ
/1ページ
次へ

僕はまだ泣けない

僕は毎日、同じ時間に玄関を見るようになった。 18:00前後にアパートの階段を聞き慣れた足音で響かせる。 必ず聞こえて来ていた。今日も、 「お帰り、仕事はどうだった?」って。 いつも通り帰って来る気がして、自然と身体が振り向く。 きっとクセになっている。 僕の心の中で君は間違いなく生きている。 変わらず、恋をしている。 今、慣れない手つきで食器を洗っている僕の瞳には、何を希望に生きていけば良いのかと、涙が溜まっているのではなく、苦しさから瞳はカラカラしていた。 君との出逢い、君との生活。 「幸せにします」それは言いたくなかった。僕と君の幸せはきっと違う。だから、 「これからは2人の幸せを半分ずつ繋げて、新たな道をつくりながら歩いて生きて行きたい」そう伝えた始まりを覚えているかな。 そんなに親しい訳でもない。連絡先も知らない期間が長くて。話した覚えも多くはない。 でも君をずっと見てしまう自分がいて、 『大切にしたい』『ずっと一緒に居たい』って、強く思った。 君も、同じ気持ちでいてくれた。今も変わらず思っているよ。 だから今、写真となって僕の前で微笑んでいる君の方が、絶対に辛いはずだ。 ごめん、本当にごめんね。守れなくて…。 残される事がこんなにも悲しい。堪えられないよ。だったら、 僕の残りの時間を全て君にあげたかった。 神様は不公平だ。どうして僕じゃダメだったの?  僕は、今までどうして君の隣にいたの? 君の隣にずっと居たかった、君を守る事が、僕の生き甲斐だって思っていた。 なのに…。何も言わずに隣から急に居なくなってしまった。 お願いだから、 大切な人、返して下さい…。 どうしたら、会える? 会いたいんだよ。 もし、この願いを叶えてくれるのなら、僕も君の元に行くから。 こんな事思うなんて、違うのは分かってる。でも、どうしても好きなんだ。 僕にとって、かけがえのない存在なんだ。これからも、人生の道を一緒につくっていく人なんだ。 いずれ僕たちから離れて、その道を、繋いでいく子を授かれたらと話していた時、本当の幸せを知った気がした。2人の血を引いた存在を想像すると、心が温かくなって、君を独り占めできる時間を大事にしよう。今を大事に過ごそうって。 戻してよ…。お願い。どうかお願いです。お願いします…神様…。どうして? 沢山、与えてくれた。笑顔にさせてくれた。 こんなにも大切で、全力で守りたいと思った人に、 どうして、こんな終わり方を与えたの?
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加