山爺

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 大丈夫だ。このまま明るくなるのを待てば、正しい道もすぐに見つかるだろう……。  そう考えながら焚き火にあたり、今度はインスタントラーメンでも作ろうかとポットに水を足していた時。 「……!」  不意に周囲の闇の中でガサガサ…と物音がした。  驚いてそちらを振り返ると、何も見えない暗闇の中から何かがぼんやりと浮かび上がり、次第にその人影のようなものは焚き火の明かりではっきりと見えるようになる……深い夜の闇に閉ざされた樹々の隙間から、それはこちらへと近づいて来たのである。 「ひっ……!」  その姿を認識した瞬間、私は息を飲んで石の如く凝り固まってしまう。  それは、人間でも、またはクマのような野生の獣でもなかった……それは、バケモノである。  身長は小学校高学年の子供くらい。一見、老人のように見えなくもないが髭面にしても妙に毛深く、顔ばかりか腕や裸足の足までもが灰色の毛で覆われており、また、一つ目かと見紛うばかりに右眼だけがやけに大きく、左眼はひしゃげて潰れているかの如くアンバランスに小さい。  着ているものもボロ布をツギハギして作られたかのような袖なしのガウンであるし、とてもじゃないが現代文明の中で生きている人間には思えなかった。  闇の中より現れたその異人は、ゆっくりと焚き火の傍らまで近寄って来ると、私を真似るようにしてそこにあった倒木の上へ腰を下ろす。  人間には見えないが、野生の獣のように火を恐れてはいないらしい……それにこの様子からすると、クマやオオカミの如くすぐさま襲ってくるようなこともなさそうだ。  では、いったい何をしに現れたのだろう? いや、それよりも、そもそもこの異人は何者なのだ?  我に返った私はポットを火の上へ戻し、けして隙は見せぬよう、倒木の椅子の上で静かに居住まいを正す。突然の遭遇に驚きはしたが、不思議と私は冷静に行動できていた。  いや、あまりの異常事態に現実味がなさすぎて、本当に起きていることなのかどうなのかも半信半疑でいるのかもしれない。  だが、やはり相手は得体の知れぬバケモノ。いつ豹変して襲ってくるとも限らない。すぐに対応できるよう用心していなければ……。
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