山爺

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「オマエ、オレノコトヲケイカイシテイルナ」  だが、そう思い直した矢先。不意に異人が口を開き、薄気味の悪いしわがれ声ではあるものの、明らかに人語を発した。  見た目とは裏腹に、人間の言葉がちゃんと理解できるみたいだ。しかも、私の心の内を見透かしてくれている。  無知なバケモノのように見えて意外と知能指数は高いのか? となると、これは思った以上に危険な状況なのかもしれない……牙を剥いてくる前に、早くこの状況を打開しなくては。  何か食べ物を与えて満足させるか……いや、それでは味をしめて、むしろ居座られるかもしれない……ならば、大声で脅して追いやるか……。  異人から目を離さぬまま、私がそんなことを密かに考えていると。 「タベモノクレルノカ? ナラ、ヨロコンデモラオウ」  再びその者が口を開き、不快なあのしわがれ声で今度はそんな言葉を告げる。  ……いや、待て。なんでそれがわかった? 私はそんな素振り見せていない。これではまるで、心を見透かしているどころか、心を読んでいるようではないか!? 「ソレニオオゴエカ。オオゴエナラオレモトクイダ」  その推論を証明するかのように、異人はさらにそう続ける。  そして、唖然とする私を置き去りに……。 「デハ、オオゴエガッセンヲシヨウ。オレカライクゾ……ウォオオオォォォーッ…!」  突然、闇も樹々も山中にあるものすべてを震わせるかの如き大音声(だいおんじょう)を異人が轟かせる。 「うっ……」  私は咄嗟に耳を抑えるとともに、今更ながらに恐怖の感情を抱き始めた。
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