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すぐに襲いかかるでもなく焚き火にあたったり、いきなり大声を張りあげたりと何を考えているかわからないが、やはり危険なバケモノであることに違いはないらしい……脅して退散させるのは不可能だ。もうこちらから逃げるしかない。
なんとかしてこの場から逃げ出さなくては……だが、クマのように背中を見せた瞬間、襲いかかってくることだってありうる。それに足は早いのか? 相手は山に棲まうバケモノ。人間以上の脚力を持っていそうだし、隙を見て逃げたとしても、すぐに捕まってしまう可能性も高い。
ならば、どうすれば……。
「オマエ、オレノコトヲオソレテイルナ? ソレニ、オレカラニゲヨウトカンガエテイル」
そうして俺が脳をフル回転させ、最善の行動をあれこれ逡巡していると、またも異人は俺の思っていることを口に出して呟く。
やはり、信じがたいことにも俺の思考を読むことができるらしい……。
思考を読みとる……そういえば、ここら辺の山麓には、そんな人の心を読む〝山爺〟という妖怪の伝説があることを思い出した。
詳しくは知らないが、その妖怪は毛むくじゃらの一つ眼をしているというし、左眼が小さすぎて一つ眼に見間違えたとすれば、ほぼ見た目も合っている。
「相手の心を読む」妖怪としては、やはり山で遭遇する〝覚〟という猿のような外見をしたものもいるが、たぶんそれも同種の存在なのだろう。
古くはこだま現象の原因と考えられていた〝山彦〟もまた、心を読むとも云われる山の妖怪だ。
他にも〝山男〟や〝山童〟、〝山精〟、〝山人〟などなど、ここ四国だけでなく日本全国…さらには中国にも似たような山に棲む人型妖怪の話が伝わっている。
山の神なのか魔物なのか? あるいは絶滅したはずの旧人類かUMA(※未確認生物)のような動物なのかは知らないが、ともかくも、どうやらそんなモノ達が密かに山中には存在しているらしい。
しかし、心を読まれるというのはなんとも厄介だ。隙を見て逃げようとしても、その瞬間に隙が隙ではなくなってしまう……。
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