山爺

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 ここならば、隠れることもできるかもしれない……もう走って逃げることは無理であったし、私はその窪みに身を潜めてやり過ごすことにした。  霊的なものなのか生物なのかはわからないが、いずれにしろ目撃情報が皆無に等しいことからして、おそらくは夜行性か夜にしか現れない存在なのだろう。  ならば、朝まで逃げ切ればなんとかなるかもしれない……今はその曖昧な一縷の望みに託すしかない。  だが、やつはこちらの思考を読むことができる……その能力が、どのくらいの距離まで可能なのかはわからないが、心を読まれたらここにいることがバレてしまうかもしれない。  ……考えるな……何も考えずに無心になるんだ……。  昔、一度だけ経験した座禅のことを思い出し、深呼吸をして息を整えると、なるべく何も考えないようにして私は朝が来るのを待った──。
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