山爺

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「…………う、うぅ…」  次に気がつくと、樹々の隙間から差す朝日に周囲の景色がよく見渡せ、いつの間にかすっかり夜は明けている。  きっと心身ともに疲れ果てていたのだろう。どうやら座禅を真似ているうちに深い眠りに落ちてしまっていたみたいだ。  念のため、辺りを警戒してみるがあの異人の気配はなく、思った通り夜にしか活動しない存在であるらしい。 「はぁ……」  ともかくも、なんとかあのバケモノより逃げおおせることができたと見てもよいだろう……。  朝日を受け、金色に輝き出す景色に安堵の溜息を吐くと、私は登山道を探してゆっくりと歩き出した。  暗闇を無我夢中で走り続けたため、全身泥だらけのあちこち傷だらけの無残な姿ではあったが、その後は昨日のことが嘘みたいにすぐ登山道が見つかり、私は難なく下山することができた。  ちなみに持って行った装備は、すべてあの場所に置いてきたままだ。それなりに値の張る高価な品なのでもったいなくもあるが、あの焚火をした地点が今ではわからないし、もし仮にわかったとしても、異人がうろうろしてるかもしれない縄張り(テリトリー)へ再び足を踏み入れるなんてまっぴら御免だ。  幸い、これ以降も懲りずに山へは登っているものの、あの異人にまた出遭うようなことは今のところ一度としてない。あんなモノに出会ったのは、後にも前にもこれが初めてである。  だが、いくら時代が移ろい変わろうとも山中はやはり他界……今でも人知れず山の中では、異形の者達が密かに闊歩しているのである。 (山爺 了)
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