藤写真館へようこそ

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『撮影終了しました。専用ゴーグルを外してください』 AIの声とともに、視界が真っ暗になった。 急いでゴーグルを外して、辺りを見まわす。 白い部屋には誰もいなかった。 私が部屋を出ると、オーナーが迎えてくれた。 「お疲れ様です。お写真の仕上がりは1週間後になります。その際には領収書をお持ちください。データは今すぐにダウンロードしていただけます。こちらのパスワードを入力して、ご自身のスマートフォンでご覧ください」 相変わらずアンドロイドのような、あたたかみのない声色。VRに出てきた男性のほうが、遥かに人間味があった。 私は立ちくらみを覚えながら、藤写真館をあとにする。 頭の中が混乱していた。 何か、大切なことを忘れているような。 あの写真館の思い出は、1ピース、欠けているような気がする。 こぶしを握りしめると、手の中で紙切れがくしゃっと音を立てた。 パスワードの紙だ。 さっき撮った写真データをダウンロードするための、パスワード。 私はスマホを取り出して、夢中で文字を打ち込んだ。 「早く早く……」 心の中の声が漏れ出る。 指先が画面を滑って、何度か入力に失敗する。 ようやくダウンロードをタップしてーー。 映し出された画像を見て、小さく声を上げた。 写真の中に写り込んでいたのは、二人。 椅子に座って驚いた顔をしている私と、その後ろでニコニコ笑っている男性。 彼がVR映像ならば、私の後ろに立っているなんて、おかしくない? しかも私、やっぱり変な顔してるし! スマホをポケットに突っ込んで、(きびす)を返す。 今来た道を戻って行く。 こんなの、一言クレームを入れてやらなきゃ気が済まない。人にぶつかりそうになりながら、一分一秒を惜しむように走る。 写真館のドアをぶち破るように開けて、館内へ飛び込んだ。
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