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「あの、ちょっと!」
「はい?」
オーナーがくるりと首をまわす。
「これ。写真のこの人に会わせてください」
「ですがこれはAIが精製した架空の人物でして」
「そんなわけないでしょ。ここに! いるんだから」
私はオーナーの銀縁メガネを取り上げた。
「総ちゃん! もう分かってるんだからね」
藤総司。
彼は、亡くなった初代オーナーの孫だった。
小学三年生の頃、私は寂しさのためによく写真館へ遊びに行った。そのとき、たまに見かける男の子がいた。
おじいさんの孫の、総ちゃん。
総ちゃんは恥ずかしがりやで、私が遊びに行くと、すぐに二階へ隠れてしまった。
同じ年頃の子がいることには気付いていた。
でもおじいさんは、「子供同士で遊びなさい」とは言わなかった。私は見て見ぬふりをした。
けれどあるとき、階段を上がってみようと思い立った。おじいさんが他のお客さんの相手をしていて、暇だったのだ。
二階の部屋を覗くと、ひとりで学校の宿題をする総ちゃんがいた。
私はしばらくじっとその子の様子を観察していた。
白い肌に、しゅっと細い目。小さな唇をきゅっと結んで、一生懸命、計算問題に取り組んでいる。
私が見ていることに気付くと、総ちゃんはびっくりして逃げ出してしまった。男の子は足が早くて、おまけに隠れるのも上手だった。
その日を境に幾度となく、隠れんぼと鬼ごっこが展開された。結局、総ちゃんの顔をまともに見たのは、片手で数えるほどしかない。
だから、思い出の中の存在が朧げだったのだ。
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