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「うーん。さすがにバレるよね」
「さすがに? バレないほうがどうかしてるでしょ。あのVRの中で、総ちゃんだけが私に触れたんだから。そんなのどう考えたって現実だよ。あなたは私の隣に立ってた。藤総司として」
「うん、そうだよ。どこで気が付くかなと思ったけど、案外遅かったね」
口調がすっかりくだけている。
アンドロイドみたいだと思っていたけど、どうやら私を騙すためにわざとキャラを作っていたみたいだ。
「下手な芝居なんかしちゃって、これじゃあ俺のほうが恥ずかしいな。でも、さすがにこれは知らないだろう? 沙っちゃんのお見合い相手が、俺だってこと」
「は?」
ちょっと、待って理解が追いつかない。
頭の中で、ゆっくりシナリオを組み立ててみる。朝起きてから今までの出来事を、丁寧に積み上げる。
「もしかして。お母さんがお見合い写真を撮って来なさいって、私に一万円を渡したのは」
「ここに来させるためだろうね、間違いなく。沙っちゃんのお母さんとは、長く付き合いがあったんだよ。うちのじいちゃんが死んでからも、ときどき差し入れを持って来てくれたりしてね。そうそう、娘がなかなか嫁に行かないって、愚痴もこぼしてたっけ」
何やってるの、お母さん。
私は頭を抱えてしゃがみ込みたくなった。
グルだったのね。
最初から、お母さんと総ちゃんが手を組んでたんだ。
「帰って来てくれてありがとう。沙っちゃん」
この腹黒め。
企みを成功させた男を、思いっきり睨みつけてやる。
本当に腹立たしい。こんなことして、私がなびくとでも?
そう思うのに、口元を押さえて笑う幼馴染が、心の底から嬉しそうにしていたから。
私は喉まで出かかった文句を、胸の内におさめるしかなくなった。
この先、何年経っても、同じ笑顔が見られるのかな。大好きなおじいさんと、その孫と過ごしたこの場所で。
藤写真館。
幼い私の、第二の我が家。
過去と未来が、一緒にやってくる場所。
そしてそれは、かつての小さな友達と、未来の旦那様に会えた、思い出の場所になるのだ。
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