藤写真館へようこそ

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私が三歳、そして七歳のときのこと。 両親と一緒に七五三の写真を撮るため、古びた写真館を訪れた。 頭のてっぺんが丸く禿げたおじいさんが、写真館のオーナーだった。 私はおじいさん含め、その味わい深い雰囲気が気に入って、学校帰りにほぼ毎日通うようになった。小学校の通学路だったことも、ふらりと寄りやすい理由だったように思う。   写真館はだいたい、いつ訪れても閑散としていた。気のいいおじいさんは、金にもならない小さな客を、気持ちよく迎え入れてくれた。 なぜか毎回、ヒヨコせんべいとオレンジジュースが用意してあって、私はおやつの時間が楽しみだった。   今もまだ、同じ場所に建っているだろうか? 商店街の街並みは、二十年前とずいぶん様変わりしている。あの頃の記憶なんて、簡単に上塗りされてしまう。 これじゃあ、オーナーのおじいさんだって、今も元気でやっているか分からない。   期待半分、諦め半分で歩いていると、見覚えのある黄色の外壁が目に映った。 看板を見上げると「藤写真館」と書いてある。 ショーウィンドウには、家族写真や成人式の写真、七五三の写真なんかが飾られている。 「まだ、あったんだ」 周りの建物が変わっているのに、そこだけは昔のままだった。 不思議な気持ちで、館内に足を踏み入れる。 「いらっしゃいませ」 「すみません、間違えました」 入った先は思い描いていたレトロな写真館ではなかった。 なぜか館内は、丸の内オフィスばりに近代的なフォトスタジオになっていた。 「いいえ。間違いではないと思いますよ。写真を撮りに来られたんですよね?」 そう言ったのは、私がよく知るおじいさんではなかった。
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