藤写真館へようこそ

9/12
前へ
/12ページ
次へ
呆気に取られる私を尻目に、おじいさんはシワを深くして笑った。   「二人とも、本当におめでとう。もうすぐ結婚式だね」 「え……、え!?」 誰と、誰が結婚するって? まさか、私とこの見知らぬ男性が?   「あ……ああ! そういう設定ってことね?」   びっくりした。 本当に結婚話が進んじゃってるのかと思った。 さすがにそんなわけない。 これはVRの中でのお話。 あくまでフィクションなのだ。   「それじゃあ、入籍の記念に。僕から一枚プレゼントしよう。二人ともそっちへ移動して」 「はいはい」   男の人が私の手を取り、アンティークな木製椅子に座らせる。そして、彼自身も私の斜め後ろに立つ。   「え、あなたも映るの?」   「おいおい、さっきから何言ってるの。俺、きみを怒らせるようなことしたかな? 結婚前に一緒に記念撮影したいって言ったの、()っちゃんじゃないか。もう、いいからカメラのほう向いて」   頭を両手でがしっと挟まれて、無理矢理、前を向かされる。 なんて強引な。 仮想現実なんだから、もう少し優しい男の人に設定してくれたっていいのに。 でも、なぜだろう? 妙にしっくり、隣におさまるような気がするのは。 私はこの人と結婚する。 ふたりで一緒の家に住んでいるさまが、ありありと想像できる。 これも、リアルにいない二次元男性だから? 二次元なら私が気に入るのも当然だよね。 いや、VRだから、三次元に入るのかな。 このゴーグルを外したら、きっと消えてしまうんだろうな。 そう思うと、ほんのちょっとだけ寂しかった。 「はい。じゃあ沙都子ちゃん。こっち見て笑ってね」 おじいさんがカメラを構えて手を振る。 「(そう)ちゃんもね」 「えっ、そうちゃん?」   私が振り返ろうとした途端、シャッター音が響いた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加