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「はい、一万円あげる」
リビングで漫画を読みながらくつろいでいると、お母さんがビシッとお札を叩きつけてきた。
「え? なになにお小遣い。やったぁ」
「あんた。二十八にもなってお小遣いなわけないでしょ。これでお見合い写真を撮ってきなさい」
「はあ? 私、お見合いするの? やだよそんなの。二次元キャラにしか興味ありませーん」
再び漫画に目を落とすと、手元からすっとそれが離れた。お母さんに取り上げられたのだ。
「沙都子がそんなんだから、お母さんは心配なのよ! 社会人になりたての頃は、ストレスも溜まるだろうし二次元を息抜きにしてもいいかなー、なんて大目に見てたけど。さすがにこの年まで彼氏のひとりもいないとなれば、親としては不安になるでしょうよ。休日だからって、ダラダラ過ごしちゃってさ」
お母さんは手の平で、パタンと漫画を閉じる。
「これは没収。あんたが旦那候補を引っ掛けてくるまで、返しません」
「嘘でしょ!? そんなの無理だよいきなり言われても。私にはハードルが高すぎる」
予約してさっき届いたばかりの少女漫画。
一ヶ月前から読むのを楽しみにしていた。
いざ。満を持して、表紙をめくったところだったのに!
テーブルに残された一万円札を見つめる。
これで新刊を買いなおしたら……だめ、だよね?
ガクッと首を垂れる。
私がこの一万円を使って恋人候補を連れてくるまで、新刊ちゃんは人質にされるらしい。
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