山好きに悪い人はいない

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私は電車に乗って最寄り駅で降り、歩き出した。   この道を歩いて帰るのも、もう最後だなと思った。 一人暮らしをしていた部屋は、明日には引き払うので、布団以外の荷物は全て、段ボールに詰めてあった。 しばらく歩くと、だるま山公園へ登る道が現れた。だるま山は山というのもおこがましいほどの低い、なだらかな山で、その山のほとんどが公園になっていた。 お酒を飲んで少しいい気持ちになっていたこともあり、ふと、登ってみることにした。 これほど、自分の家の近くにあるのに、一度も登ったことがなかった。 そういえば、私のうちがだるま山に近いと彼に話したことなどあっただろうか…。 私は少し疑問に思いながらも、あまり気にせずに坂道を登って行った。 15分ほど登ると、頂上に辿り着いた。 思ったよりも息切れがして疲れたが、その疲れも、今は心地よく感じた。 また、頂上にある展望台から見る夜景は美しく、 最後に登ってみてよかったと思った。 ぶらぶらと歩いていると、望遠鏡があるのが目に入った。100円玉を入れると、2〜3分間見られる、観光地によくあるあれだ。 私は財布を出した。最近では小銭などほとんど使わないので、100円玉があるかどうか…。 財布を探ってみると、100円玉が1枚だけ入っていた。 私はその100円玉を入れて、望遠鏡を覗いた。 思ったよりも遠くまではっきりと見えた。 私は望遠鏡を動かして、自分の家を探してみた。うちの辺りでは1番高い5階建ての建物は、割とすぐに見つかった。 一人暮らしの部屋を探すときに、高めの階数に住む方が安全だと思い、5階建ての5階に部屋を借りることに決めたのだった。 けれど、それも安全ではなかったということを、彼の事件で思い知らされることになった。 それに、5階だという安心感もあって、昼でも夜でも気にせずに、カーテンを開け放していることも多かった。今は私の部屋は真っ暗だが、灯りをつけていれば、ここから部屋の中が丸見えだろうと思われた。
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