少年の決意

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少年の決意

「最近どうしたんだ?」  悠馬は山彦を困惑して見つめた。ここ最近も山に来るたびに会うのだが、いつもの元気が日に日に無くなっていった。今日は特にひどくて、悠馬が山びこを楽しんでいても張り合うことなく少し離れたところに立っているだけなのだ。山彦はやはりしゃべることは無かったが、なんでもないと首を横に振った。 「体調が悪いなら、家に帰ってゆっくり休んだらどうだ」  様子のおかしい山彦に、更に重ねて言ってみたが反応が薄い。どうしたものかと頭を悩ませたが、いい案なんてすぐには思いつかない。とりあえず、近くに行ってもう一度聞くだけ聞いてみよう。そう思って山彦の方に行こうとした時だった。溜まっていた落ち葉に足を取られ、右足が滑った。 「うぉ!?」  とっさにバランスを取ろうとしたが、上手くいかない。むしろ片足になって不安定になった左足も滑り始めてしまった。悠馬の声に驚いた山彦が走って来たが、その小さな手が届く前に彼の体は宙に舞っていた。そのまま重力にしたがい、転がり落ちて行った彼は頭をぶつけて気を失った。    山の斜面に横たわって動かない悠馬を山彦は起こそうと必死に体をゆすった。それが怪我人にしてはいけない行為だということは、精霊の彼には分からない。ただ起きて欲しい一心だった。  山に住む動物たちが怪我をして、自分で動けなくなると死んでしまうというのは知っていた。今の悠馬も同じ状況だというのは分かる。だから死んでほしくない、早く目を覚ましてほしいと思って目を覚まさせようとしているのだが、その瞼が持ち上がらない。  おいらのせいだ、と山彦は何度も自分を責めた。岩じいの言葉を気にしていつも通り振舞えなかった。悠馬が足を滑らせたのも、そんな様子のおかしい自分を気にして注意が散漫になっていたからに違いない。視界が歪んで、ぼたぼたと手の甲に涙がはじけた。  岩じいの言う通りだった。人の真似をしてみても、こんな時どうすればいいのか分からない。本当に人だったなら、こんな風に泣くばかりの役立たずではなかったはずだ。  不甲斐なくて泣いている山彦の耳に、どこかから笑い声が聞こえてきた。はっとして顔を上げ耳を澄ますと、木々のざわめきと動物の鳴き声に混じり小さく人の話し声がした。  近くに人がいる! 悠馬を助けられる!  山彦は声のほうに駆けだそうとして、けれどすぐに動きが止まった。彼らをここに連れてくることが出来れば、悠馬を助けられる。でも、山彦の姿が見えるのは力をくれた悠馬の前でだけ。離れてしまえば、他の人間の目には映らないからだ。それでは、駆け出して行っても助けを呼べない。来てもらえなければ悠馬は助からない。  ぐるぐると考えを巡らせた山彦はたった一つだけ方法を見つけた。  でも、その方法は――  迷ったのは一瞬だった。山彦は大きく息を吸い込んだ。
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