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消えた少年
「あいつ、どこに消えちまったんだろうな」
悠馬は山頂で呟いた。視線の先ではもうすっかり衣替えが済んだ木々が赤々と燃えている。
あの日、足を滑らせて頭を打った悠馬は他の登山客に発見され病院へと運ばれた。不幸中の幸いで、命にかかわるような怪我は無かったが、それでも色々な所を打ち付けていたので、検査も兼ねてしばらく入院となってしまった。
その時にきいたのだが、登山客が気づくまで、ずっと「助けて!」と山彦が悠馬のそばで叫んでいたらしい。そのおかげで、早くに救助隊も呼ばれて助かったのだ。
「礼もしたかったのに」
退院してからちゃんと礼をしたいと、何度もこの山に登っているのだが、なぜかあれから一度も山彦が姿を現さない。名前もどこに住んでいるのかも知らないので、こちらから会いに行くこともできなかった。ちゃんと聞いておけばよかったと思っても後の祭りだ。
それでもここで叫んでいれば、ひょっこり何事も無かったように現れるような気がしている。だからいつものように声を張り上げた。
「やっほー!」
一人分の山びこはどこか寂しく反響し、消えていった。
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