0人が本棚に入れています
本棚に追加
静かな夜
誰もいない静かな夜。岩じいは寂しげに月を見上げた。もうにぎやかに喋りかけてくる年若い友人はいない。
思い出すのは山彦の最後の声。覚悟を決めた声だった。
山びこは人の声を返す存在だと定義されている。精霊同士ならともかく、人に対しては常に同じ言葉を返さないといけなかったのに。
「山びこであったお主が、人が発していない言葉をしゃべったら存在の否定。自身が消えることは分かっておったろうに、そんなにあの人の子が大事だったのか?」
答えるもののない問いかけだ。それでも吐き出さずにはおれなかったそれに、どこかで小さく鈴の音が鳴った気がした。
最初のコメントを投稿しよう!