アリとロビン【試し読み】

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 と、視線の先に目的の店を見つけて麻袋からコインを一枚取り出した。そこは老婆がやっている麦とじゃがいもを売っている店だ。老婆は瓶の中に入れるように指図し、俺はコインを入れて小麦と芋の袋を一袋ずつもらっていく。  なぜ瓶の中なのか、初めの頃は分からなかったが、老婆が教会にコインを入れた瓶を持って入っていく姿を見て理由がわかった。聖水で不浄の物を清めてもらっているのだ。老婆の知恵のおかげで、俺から受け取ったコインは清めて貰えば呪いを受けずに済むと知れ渡ったので、買い物ができる店が増えた。  同じ要領でキャベツ、豆、林檎、塩を調達し、両手に抱えて家路を急いだ。村にある木でできた門を潜る時、唐突頭に何かが当たって立ち止まる。 「化け物っ! 怪物っ! 二度と村に来るなーっ!」  背中にも硬い物がぶつかる感触に振り返ると、四人の子供が石を手に持っていた。が、俺の顔を見るなり、叫び声を上げて逃げていく。溜息を吐いて村を出る。月に二度、同じようなことがあるが、子供達にとっては肝試しのような遊びなのだろう。  田畑の間を抜け、山道に入る。疲労の蓄積と荷物のせいもあり、一歩が重い。  川のそばの木陰でひと休みして、ふと遠くの空を見ると、黒い雲がこちらにゆっくりと流れてくるのが見えた。今夜は嵐になりそうだ。いつもよりも足を早めて森の中の家に辿り着いたのは、日が落ちた頃だった。  小さい頃父親が建て直した木造りの家。何度も雨漏りをして、その度に直してきたつぎはぎの板でできた屋根を心配しつつ、降り出した雨の音を聴く。雨は嫌いじゃなかった。一人でいると静かで長く感じる夜を少しだけ賑やかにしてくれるから。
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