墜楽 R15

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墜楽 R15

 ディヴァーン造船前、南部基地にて―― 「はぁ……ティファヤ……」 「ウィズ、酷い……んふ……」 「君が可愛過ぎて、理性が限界。もうちょっとだけ、いいでしょう?」 「拒めないとわかっててするの、ずるい」 「ごめんね」 「……んんぅ」  今では無人の基地跡。軍隊は此の地より数日前にとっくに撤退している。  基地の密室内には二人の人間がいる。  長めで目元に影を落とす黒髪に、切れ長で温度のない瞳の青年ウィズ。  淡い赤髪の長髪を三つ編みにして結い上げた、黄みがかった薄緑の瞳の女性ティファヤ。  ウィズはティファヤの腕を両手で強く壁に拘束し、呼吸を奪う濃厚なキスを交わしていた。激しく舌を絡めて、深くまで味わい尽くしていく。意識を蕩かせ合って甘い感覚に酔いしれている。手も唇も熱くなって、頬は火照り紅潮している。 「想い合える内に、君を心置きなく欲するままに愛でられる好機を逃さないために、今だけは許して。やっと掴めた僥倖なんだ……甘えさせてよ。だって僕達は互いに想い合っているのだから、なにひとつ問題ないはずだよね」  頬を撫ぜて唇をなぞる細く綺麗な指先。軍人として鍛えられた男らしい手だが、しなやかな美しさを損なっていない。主に彼は軍機へ搭乗して操縦し、裏方での情報収集を得意としている故だろう。  彼が普段愛用している黒い手袋は、現在外されている。だから直に温度が伝わってしまう。冷たい指が頬から線を辿るようにして首筋へ滑った。触れるか触れないかの絶妙な指の感触に、ティファヤは身を震わした。 「感じたんだ。興奮したのか、ティファヤ?」 「別に擽ったかっただけ」   「なんだ。てっきり、もっと気持ちよくして欲しいのかと」 「なーに言ってんのよ」 「そういう強がりで意地っ張りなところも好き。――あぁ、ティフ……愛してる……。泉よりも澄み切った心を、清廉潔白で直向きで堅実な姿勢を……白が一番似合う君を――全部」 「んんん……ぅふ……」    吐息も温度も混ざり合い、ふわふわとした幸福感に満たされる。もはや理性で繋ぎ止められるほど、冷静さで押し留まって抑えきれるほど、欲望の火は小さくなかった。煽る風に流されるようにして燃え広がって、今ではもう制御が効かない。密室内は微弱な暖色の光に照らされていて、一層背徳感を強める状況下。込み上げる愛しさに燃え上がる鼓動が、次を欲してやまなかった。  そのうち、ティファヤは捕らわれたまま簡素なベッドへと押し倒された。温度のないウィズの目には、確かな欲がどろりと溶けていて、妖しく光っていた。 「こんな底なしの感情を抱いたのは初めてだった。僕を愛で歪ませた者は君以外にいないよ。歪めた責任をとって。ティフの全てが欲しい。優しくて、僕が好きな君なら拒否はしないで……むしろ――受け入れたが最後、もっとと強請るかな」  "むしろ"より後の小さな呟きをティファヤは聞き取れなかった。彼女に頷ける間も、追求する余裕も与えはしなかったからだ。応えを促すウィズは、残酷にもティファヤの応えを唇で塞ぎ、しかも耳を塞いだ。 「一生、離れてあげないし、君を逃がすこともしない。覚悟してよ、僕からの愛と執着は君の予想より軽くないから。君が今無性に欲しているものも、お見通し。痛いくらい、思い知らせてあげようか」  口角を上げたウィズは、キス程度は前戯とばかりに強欲な愛情を剥き出しにした。 「は……まだ止められないな。いい声で反応してくれるものだから、自制なんて無理だ」 「ひぁっ……ぅう……?!」 「雷に撃たれたように怯える必要はないさ。慣れれば、きっと今以上に欲しくてしようがなくなる。気持ち良すぎて、激しく求めてしまうかも」  ティファヤの華奢な身をゆっくりと焦らすように愛撫し、首筋に印を落とした。じれったい時間が、身の内を燻ぶる。 「身体に教えて、記憶に刻む。存分に淫れてね、愛しい人」  ――この瞬間、恍惚に微笑んだ彼の顔を、絶対にティファヤは忘れられないだろう。  後に胸焼けするほど甘い言葉を耳元で囁かれ、身体の隅々まであらゆるところを愛し尽くされた。 「ふぅん……思ったよりも着痩せしてるんだね、意外だよ。この香りはそそる。それと豊満な柔らかさ、癖になりそう。色付いて感じやすくなって、もうこんな風になってる……欲張りで素直な身体」  可愛くて仕方ないと目を細める彼。 「目が涙で潤ってるね……たまらないな。ここも、煽るように滴っているよ。もっと濡れたら……どうなると思う……? あとでたっぷり感じさせてあげる。形もちゃんと覚え込ませなきゃ、ね……」  クスッと意地悪な表情で言ってくる彼。 「君をもっと奥まで感じたい。もう、いい?」  優しく髪を梳きキスを落とし、懇願するように抱きしめて静かに囁く彼。 「僕に愛されることに、依存しなよ」  どうにも、ティファヤはウィズに弱い。彼の押しの強さに、ただ成されるがままになる。  何度も角度を変えて唇を重ね合い、柔肌にもキスの雨が降り注ぎ、露わになった敏感な部分へ舌を這わされ食まれた。形や温度、感触を確かめるように触れられた。貪るように求められて、ウィズに身を任せてしまう。力も思考も奪い去られて、快感に声にならぬ音で啼くのみ。 「君は、僕だけのもの」
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