17歳。大人の恋始めます

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 エリカは勝ち誇ったように笑っていた。  遠山君と付き合う事になったらしい。  私に責める資格なんてない。  私が勝手に彼を好きだっただけで、付き合っていたわけじゃないし、エリカが遠山君の事を好きなのも、何となくわかってたし。  2人は中学から一緒で仲良かったしね。  私の気持ちなんて元々なかったかのように、エリカは2人で撮ったプリクラの画像を見せて来た。  極端に白飛びして、異常に目がデカくなっている、アレ。 「この目やばいよね」  満更でもなさそうにそう言いながら……。  私はキラキラとしたスクリーンを直視できない。 「うん。別人みたい」 「けどさ、インスタとかに載せるにはちょうどいいと思わない?」 「身バレはしなさそう」  インスタで彼氏できました宣言でもするつもりだろうか?  勘弁してほしい。  死んでもイイネなんて押したくない。 「あ、ごめん。そろそろ行くね」  エリカは廊下に視線を遣った。  そこには、すきぴ、もとい、遠山君がいて爽やかに手を上げていた。  ズッキン、ズッキンと心臓が悲鳴を上げる。 「そっか、頑張ってね」  渾身の作り笑いを繰り出して、手を振った。 「ましろも早く彼氏作りなよ」  放っといて。 「うん。頑張る」 「夏は短し恋せよ乙女ってね。17歳の夏、もうすぐ終わるぞ~」 「もう、終わってるよ。もう9月。暦の上では秋です」 「相変わらず捻くれてる~」 「早く行きなよ。遠山君、待ってるよ」 「うん! じゃあね~、ばいばぁーい」  大げさに手を振って、派手に巻いた髪を揺らしながら、駆けて行き、遠山君の腕に絡みついた。  胸糞わるぅ~。  2人の姿が十分消え失せた頃合いを見計らって、私も外に出た。  暦の上ではもう秋。  けれど体感温度はまだまだ夏真っただ中。  西日に目を細めながら、駅に向かった。  いつもの風景が、昨日までとはまるで違って見える。  グレーに沈むアスファルトばかりを視界に収めながら、いつもの道のりを足早に通り過ぎる。  通学電車で、いつも彼を見かけていた。  目が合っただけでドキドキが止まらなくて、羽が生えたみたいに体は軽やかになる。  恋とはそういう物。 「電車一本遅らせてよかったな」  同じ空間で、二人のいちゃつく姿を見せつけられるという拷問からは免れた。  夜は益々私を苦しめた。  恋なんてしなければよかった。  モヤモヤは蓄積されていくばかり。  見なきゃいいのに、エリカや遠山君のSNSを行ったり来たりしちゃって。  けれど、不思議と涙は出ない。  こう言う時、大声を張り上げて泣けたらどれだけスッキリするだろう。 「ましろちゃーん。ご飯よー」  部屋のドアをノックしたのは一応、母親。 「いらない」 「いらない? あら、珍しい。具合でも悪いの?」  珍しいだなんて、知ったような事言わないで。  私はあなたを母親とは認めていない。  父親の再婚相手だ。  勝手にいつの間にかこの家に入り込んで居座った。  あなたがいつも座っている場所は、ママの場所なんだから。 「開けるわよー」 「ダメ! 入って来ないで」 「あら、そう。テーブルに準備してあるから、お腹空いたら食べてね」  家にいても落ち着かない。  思いきり泣ける場所さえない。  私は、夜の街に繰り出した。  覚えたての化粧に、大人びた服。  履きなれないハイヒールで外に出た。  ほとんどヤケだった。  ネオンがきらめく夜の街は、開放感であふれていた。  昼間とは違う匂いをまとった街に、ヒールがアスファルトを叩く音が心地いい。  通り過ぎる男の人が、じろじろと私を見る。 「君、いくつ?」  目がパキってて怖い。 「君、いくら?」  売り物じゃないっつーの!  急に怖くなって、逃げるように走った。  突如、視界がぐらりと大きく歪んだ。  段差にヒールが引っかかって、盛大にこけてしまったのだ。  したたかにぶつけた膝の痛みに悶絶して、しばしうずくまる。  痛みと恥ずかしさで顔を上げる事ができない。  いったーい。もう、バカバカバカバカーーー。  地面に拳をぶつけながら、心の中で叫ぶ。  その時だ。 「大丈夫ですか?」  不意に頭上から声が降って来た。  私は思いきり首を横に振った。 「いたーい」  大粒の涙がボロボロとこぼれた。  惨めだ。  恥ずかしい。  見ないで。  そう思った次の瞬間、体がふわっと宙に浮いた。  ふと顔を上げると、見覚えのないスーツ姿のお兄さんが立っていた。  私を立ち上がらせてくれたのだ。  優しそうで愛嬌のある目。  誠実そうな口元。  首元からは、清潔そうなソープの匂いがした。  本能が訴える。この人は大丈夫だと。 「これ」  彼はハンカチを差し出した。  それがトリガーとなり、そのハンカチに顔を埋めて声を上げて泣いた。  せっかくのメイクはボロボロに崩れてしまってる事だろう。 「こんな時間に、一人でうろつくのは危ないよ。この辺は変な人も多いから」  そう言って、服に着いた汚れを優しく払ってくれた。  激痛を訴えた膝の傷は案外大した事なくて、うっすらと赤くなっている程度だった  けれど、ハイヒールは壊れていた。  無様にかかとの部分がふらふらと泳いでいる。 「家はどこ? 送って行くよ」  彼は、壊れたハイヒールを手に持って、タクシーに手を上げる。 「いや! やめて!」 「え?」 「帰りたくない」
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