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薫の使ってるベッドはクイーンサイズというものらしく、俺のベッドより横幅がデカい。薫の父親が縦にも横にもデカいから、買うなら最初からデカい方がいいだろうとこのサイズを選んだというのだが。
案の定、高一になった薫はついに180センチを超えた。だが意外に横幅は育たず、モデル体型だのスポーツをやれだの周りからチヤホヤされて気に入らない。昔は俺と同じチビだったくせに。
「なぁ、まだ2分もあるんだけど。死ぬ。心はすでに死んでいる」
「1分半だ。気を鎮めて待て」
「死んだらお前のせいだぞ。葬儀代はぜんぶお前が持てよ」
汗がベタベタして気持ち悪い。こいつは何でこんなに我慢強いんだ。
「エイト。お前、棺桶には何を入れてほしい」
「は? お前マジでいい加減にしろよ。葬式の準備よりクーラーが先だろ!」
「1分あれば答えられるだろ。棺桶には生前大事にしていたものを入れるんだぞ」
薫は言い出すとしつこいので、適当に相手をしてやるしかない。
「エアコンのリモコン」
「お前、ふざけるなよ」
「ふざけてない。いまの俺にはリモコンが何より大事だ」
リモコンを握りしめた薫が寝返りを打ち、俺の横顔をじっと見つめてくる。
「30秒以内に答えろ」
「だからリモコン。リモコン一択」
「お前、本気で言ってんのか。どうかしてるぞ」
なぜか薫が本気で怒っている。
本気なわけがねぇじゃねぇか。どうかしてるのはお前の方だよ。
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