1. 社内の噂話

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1. 社内の噂話

——数週間前のこと。 「小池! 聞いてくれよ」    仕事終わりに三つ年上の男性社員、高橋が嬉々として声をかけてきた。 「あそこの宝くじ売り場、知ってるか?」 「いえ、何のことでしょう?」  空はノートパソコンを閉じ、かけていた眼鏡をケースの中にしまった。  茶色い猫っ毛を耳にかけ、高橋の言葉に耳を傾ける。 「当たるんだよ」 「へ?」 「だから、当たるんだよあそこの売り場!」 「そっそうなんですか……」  高橋のあまりの気迫に、空は圧倒された。 「俺は、この間あそこの宝くじを買ったんだけど……出した金額の二倍になって戻ってきたんだぜ」 「なんと! それは素晴らしいですね」  ちなみにどれくらい買ったんですか? と空は尋ねた、 「先々月の給料全部」 「はい!?」  この先輩、マジか。空は開いた口が塞がらなかった。 「小池もやってみろよ! まぁ宝くじだから断言はできないけど、ほぼ確実だぜ」  そう言った先輩はじゃあなと言うと、見るからに浮き足だった様子で去っていった。  空はそう言った話は信じられなかったので、隣にいる後輩、立花(たちばな)に尋ねてみた。 「ねぇ立花、さっきの話知ってる?」    そう聞くと立花は驚いた顔をした。 「……え、先輩知らないんですか?」  最近社内はずっとその話で持ちきりですよと立花は呆れた。 「先輩。僕は先輩の仕事熱心なところ、とても尊敬しています」  真剣な顔でそう告げ、それから立花は続けた。 「でも、こういう話は早めにキャッチしておかないと、人生損しちゃいますよ」
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