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なるほど、と空は思った。
「うちの営業課長も、経理部の係長も当たったってこの間騒いでました。それと女性陣も各々百万円当たったか何かでブランド物の化粧品を山のように購入したと毎日のようにマウント取り合っていますよ」
「……知らなかった」
「だって先輩、そのときバリバリ仕事してましたもん。ワザと無視してるんだと思ってました」
「僕、集中すると周りの声聞こえなくなるんだよなぁ」
「……そういうところ、嫌いじゃないですよ」
じゃあ俺仕事終わったんで、そう言って足早に立花は去っていった。
空は考えた。
たしかに空は昔からそういう話には疎い。彼自身、思春期を過ぎるころからそこそこ気にしていたのだ。
立花のデスクを見ると、キーボードの近くに宝くじ券が置いてある。
「立花も買ったのか……」
本当に噂話を耳にしなかった。空は少しショックを受けた。
それからまた少し考えて、子どものころ転勤族で周囲の人に馴染めなかったのが原因なのかもしれないと、空なりの結論に至った。
ブブブッ
ちょうどそのとき、空のスマホに最愛の彼女からメッセージが届いた。
〈今日は何時ごろ帰って来れそう?〉
空はこのあとどうしようか悩んだ。仕事は終わらせたので帰ることができる。
だがさっきの話を無視できなかった。
〈いつもの時間より、二十分くらい遅れる〉
そう返信すると、すぐに〈了解〉とウサギのスタンプが届いた。
空はスタンプを送り返すと、例の宝くじ売り場に向かった。
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