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凛は少し考えてこう言った。
「もしかして、会社近くの宝くじ売り場のこと?」
「へ? うん、そうだよ」
空は頭を上げないままだった。
「ちょっと、土下座なんて止めてよ。そういうのは好きじゃない」
凛は何故か余裕そうだった。
「どうしてそんな」
「空、私も話があるの」
だから聞いて欲しいと凛は続けた。
「……どうしたの?」
空はティッシュで鼻をかんだ。
「当たったの」
「え?」
「だから、当たったのよ! その宝くじ売り場で」
「……ちなみにいくら?」
「……円」
「ごめん、声が小さくて聞こえない」
そういうと、凛は空の耳元でそっと呟いた。
「……三億円」
「え??? 嘘だろう?」
「本当よ」
今度銀行に換金しに行くわ、と凛は言った。空は大声で叫びそうになり、それに気づいた凛は空の口元を手で力強く覆った。
「しばらく二人とも働かなくて良さそうよ」
「……これは夢か何かなの?」
「——私も同じように思っているわ」
だからお給料のことはしばらく不問にしてあげる、と凛は言った。
「それから、空。まだ私に言ってないことがあるわ」
「何だろう? 思いつかないな」
「もう! すごく大切なことよ!」
驚きの理由で罪の意識から解放された空は、思考回路が上手く働かなかった。
凛は居間の扉を開けると、玄関を指差した。
「あ!」
「思い出したのね」
「靴を揃えてないや」
それを聞いた凛は、ため息をついた。
「違うわ」
「違うの? じゃあ何だろう」
凛は空の目を見ると、こう言った。
「まだ、『ただいま』って聞いてない」
「あ……」
——ごめんね、ただいま。
そう言って空は困ったように笑った。
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