3.帰宅

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 凛は少し考えてこう言った。 「もしかして、会社近くの宝くじ売り場のこと?」 「へ? うん、そうだよ」  空は頭を上げないままだった。 「ちょっと、土下座なんて止めてよ。そういうのは好きじゃない」  凛は何故か余裕そうだった。 「どうしてそんな」 「空、私も話があるの」  だから聞いて欲しいと凛は続けた。 「……どうしたの?」    空はティッシュで鼻をかんだ。 「当たったの」 「え?」 「だから、当たったのよ! その宝くじ売り場で」 「……ちなみにいくら?」 「……円」 「ごめん、声が小さくて聞こえない」  そういうと、凛は空の耳元でそっと呟いた。 「……三億円」 「え??? 嘘だろう?」 「本当よ」  今度銀行に換金しに行くわ、と凛は言った。空は大声で叫びそうになり、それに気づいた凛は空の口元を手で力強く覆った。 「しばらく二人とも働かなくて良さそうよ」 「……これは夢か何かなの?」 「——私も同じように思っているわ」  だからお給料のことはしばらく不問にしてあげる、と凛は言った。 「それから、空。まだ私に言ってないことがあるわ」 「何だろう? 思いつかないな」 「もう! すごく大切なことよ!」  驚きの理由で罪の意識から解放された空は、思考回路が上手く働かなかった。  凛は居間の扉を開けると、玄関を指差した。 「あ!」 「思い出したのね」 「靴を揃えてないや」  それを聞いた凛は、ため息をついた。 「違うわ」 「違うの? じゃあ何だろう」  凛は空の目を見ると、こう言った。 「まだ、『ただいま』って聞いてない」 「あ……」 ——ごめんね、ただいま。  そう言って空は困ったように笑った。
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